コンシャス・キャピタリズムも「キャピタリズム」

4月第一週の週末にサンフランシスコで行われた「コンシャス・キャピタリズム」のカンファレンスに行ってきました。コンシャス・キャピタリズム(意識の高い資本主義)とは、崇高な目的、マルチ・ステークホルダー・アプローチ、意識の高いリーダーシップ、意識の高い企業文化の四つを柱として、企業が利益を上げることだけを重視するのではなく、社会に向けての価値創造・価値提供をすることを目的とする考え方を指します。

サンフランシスコ

サンフランシスコのダウンタウンの中心であり、ケーブルカーの発着所としても知られているパウエル通りを北へ北へと急な坂を上ると、「ノブ・ヒル」という眺めのいい丘の上に到着します。その丘の上にある公共イベント会場でカンファレンスは行われました。

カンファレンスは、コンシャス・キャピタリズムの四つの柱である「崇高な目標」、「マルチ・ステークホルダー・アプローチ(投資家だけではなく、従業員、顧客、取引先などといった複数のステークホルダーに対する平等な価値創造を目指すアプローチ)」、「意識の高いリーダーシップ」、「意識の高い企業文化」のそれぞれを事例を交えて解説する構成になっています。また、「ザ・ボトム・ライン」と題して、コンシャス・キャピタリズムと利益性の関連について討議するセッションも設けられていました。
ホール・フーズ・マーケット(スーパーマーケット)、トレーダー・ジョー(スーパーマーケット)、コンテイナー・ストア(収納関連のスペシャリティ・ストア)、パタゴニア(アウトドア・アパレル製造小売業)、メソッド(環境とデザイン性に留意した日用品メーカー)など、今日、米国におけるコンシャス・キャピタリズム実践企業の代表格とでも呼ぶべき会社のトップ経営者が名を連ねるカンファレンスですから、感動させられたり、考えさせられたり、刺激を受けたりすることがたくさんありました。持参したノートパッドの紙面が黒いインクで埋まるまでノートをとり続けましたが、その中でも、最も大切な気づきとして改めて書き記したのは、「コンシャス・キャピタリズムもまたキャピタリズム(資本主義)である」ということです。→ホール・フーズ・マーケット、トレーダー・ジョー、コンテイナー・ストア、パタゴニアの取り組みにご興味のある方はこちらもどうぞ。

「世のため、人のため」という側面ばかりがクローズアップされるため、「コンシャス・キャピタリズムは利益を重視しない」と誤解されがちです。しかし、コンシャス・キャピタリズムはあくまで「ビジネス(営利企業活動)」を媒体として社会に価値を提供する、というコンセプトですから、実のところ、一般のビジネスと同様か、ともすればそれ以上に、注意深く利益管理を行っているのではないかと思います。

コンシャス・キャピタリズム

利益が出なければ、コンシャス・キャピタリズムが目指している「社会に対する価値創造」も、「従業員が健やかに、やりがいをもって働ける職場環境の提供」も実現できないわけですから、これは当然のことです。

従来型のキャピタリズムとコンシャス・キャピタリズムが根本的に異なるのは、「利益最大化を本旨としたキャピタリズム」ではないということです。利益は大きければ大きいほど良い、利益拡大のためなら他を犠牲にしても良い、という考え方ではありません。むしろ、重要視しているのは「(社会)価値の最大化」です。

しかし、それでいて、コンシャス・キャピタリズムの実践企業は、従来型の企業の標準をはるかに超える利益を上げ、長期的に安定した成長を実現しています。「利益最大化を本旨とせずに利益を上げる」という逆説が成立しているのです。コンシャス・キャピタリズム研究の権威である米マサチューセッツ州ベントレー大学のラジ・シソディア教授によると、1996年から2011年までの15年間、コンシャス・キャピタリズム実践企業の業績と株価を追跡したところ、コンシャス・キャピタリズム実践企業が1,646%の投資リターンを生み出しているのに対し、米国株価の代表的な指数とされるS&Pのリターンはわずか157%に過ぎません。

コンシャス・キャピタリズムでは、ビジネスは財務価値だけではなく、「知的価値、関係性価値、感情価値、精神価値、文化的価値、健康価値、自然環境価値」など、いろいろな価値を生んで社会に貢献できる仕組みであると提唱しています。(余談ですが、今回のカンファレンスではランチのブュッフェに菜食主義やビーガン(卵も乳製品も食べない菜食主義者)の人たちのための献立も用意し、また、ホール・フーズのサプライヤーと思われる人たちがブースを出店して、健康と環境に配慮したデザートやドリンクを配っていました。)次回から、これらの社会価値創造と利益創造を両立して実践している企業の例について書いていきたいと思っています。