カルトライクな企業文化って?...ヨガ・アパレルのルルレモン

英語で、時おり、ある特定の企業文化について「カルトライク」と表現されているのを耳にすることがあります。私が長年研究しているザッポスもそう。サウスウェスト航空も、ホールフーズもそうです。自らの企業文化やコア・バリューを前面に押し出し、強烈なブランドとファンを築いている優良企業はそう呼ばれることが多いような気がします。

ルルレモンしかし、「カルト」というのは一般的にネガティブな印象をもつ言葉なので、私自身はこれを企業文化について使うのをあまり好みません。恐らく、「カルトライク」という言葉を使っている人たちは、「ファナティカル」と同様の意味でこれを使っているのだろうと思います。

「ファナティカル」という言葉は私も好きで、実は新著の中でも頻繁に使っています。「ファナティカル」とは、「熱狂的な」とか「徹底した」という意味ですが、アメリカのビジネス界では、かなり以前から「ファナティカル・サービス」のように使われてきました。私は、未来企業は、「ファナティカル」でなくてはならないと思っています。自らの信じること、実現したい夢の上に旗を立て、共感する人たち(働く人、顧客など・・・)をその旗のもとに集めるのです。そして、「これ」と決めたら、熱狂的なまでのこだわりで徹底して自らの価値観を実践していきます。会社の中で働く人に対しても、お客さんに対しても、ぶれることもなければ、偽ることもない。だからこそ、ファンは熱烈な信頼と愛情で報いてくれるのです。

本の中には書きませんでしたが、最近、ルルレモン(Lululemon)というカナダのヨガ・アパレル製造小売業者について簡単に学ぶ機会がありました。そのきっかけも、とある記事の中で「カルトライク」と称されていたからです。いろいろと賛否両論の多い会社ではありますが、今日は、ルルレモンの「カルトライク」ならぬ、「ファナティカル」ぶりについてお話したいと思います。

普通、ヨガ・ウェア・ビジネスというと、「ニッチで小ぶり」というイメージがありますが、ルルレモンは2012年の売上が10億ドルを超える上場企業です。北米とオーストラリアに175店舗をもち、6,000人近くを雇用します。2007年には1.5億ドルであった売上を5年間で7倍近くにするという、誰もがうらやむ快進撃。北米が「大不況」に陥っていたさなかにも、年率30%から60%の勢いで売上を伸ばしてきた計算になります。

このように、ルルレモンのビジネスは、「小ぶり」ではないが、「ニッチ」ではあります。ルルレモンの商品は誰でもが買える廉価品ではないからです。ルルレモン自身も、「ヨガのウォルマート」になろうと思ってはいません。つまり、マス(大衆)に売ろうとは思っていないのです。代わりに、ルルレモンを熱愛し、ルルレモンのファッションを通してルルレモンと一体化したいと思うお客さんたちに、できるだけ多くの商品を買ってもらおうと思っています。その思惑どおり、ルルレモンの顧客は一着98ドルもするヨガパンツを嬉々として買っていきます。

ルルレモンいわば、ルルレモンの顧客は「洋服」を買っているのではなく、ルルレモンという「イデオロギー」と「メンバーシップ」に対してお金を払っているのです。ルルレモンのコア・パーパス(存在意義)は、『平凡から偉大さへと世界を変える』です。ルルレモンの「マニフェスト」に謳われている価値観(コア・バリュー)の数々・・・、『人生に予行練習はない』、『友情はお金より尊い』、『前向きな考えを選べ』・・・などに顧客はひかれ、そんな生き方に共感してルルレモンの商品を買っていきます。

ルルレモンは「コミュニティ」です。ルルレモンの店舗では週に一度無料ヨガ・クラスが提供されます。そして、店員は、周辺地域でヨガを教えるインストラクターやその他アスリートを「アンバサダー」としてリクルートしてくるそうです。「アンバサダー」は、店舗でヨガ・クラスを教えたり、商品や店舗に関するフィードバックを提供したり、広告塔としての役割を果たします。各店舗に行くと、「アンバサダー」の写真がポスターにして掲示してあります。

店舗が、ヨガとルルレモン的生き方に共感する人々が集まる場所としてかたちづくられているだけではなく、店員も、ルルレモン・ブランドを背負い街に出て行くという意識的な活動をしているというわけです

ルルレモンの成功に目をつけ、多くの企業がヨガ・アパレルに手を染め始めています。まず、ギャップが展開する「アスレタ(Athleta)」。ギャップほどの財力をもってすれば、ルルレモンの商品やマーケティングを模倣するのは難しくはないし、実際そうしていますが、ルルレモンが強いのは、そのブランドの基盤となる企業文化と価値観を設立当初から入念に築きあげ、今なお徹底して追い求めている点です。「スタイル」は真似できても、「価値観」を容易に真似することはできません。「信じるもの」や「夢」の上に旗を立て、そこに共感者たちを集めること。これからの企業にとって、いかにそれが重要かを物語ってくれる一例だと思います。