「必要なのは、常に前進しているという意識」-ザッポスCEOトニー・シェイと、「幸せの条件」

(2010. 4. 14)

ザッポスCEOトニー・シェイによる著書『Delivering Happiness(邦題:ザッポス伝説)』の出版にちなんで、ラスベガスにあるザッポス本社を訪問し、ザッポスCEOトニー・シェイにインタビューをしてきました。本の事から始まり、企業文化について、リーダーシップについて、「幸せ」に関するトニー自身の哲学について、そして彼のプライベート・ライフについてなど話は弾み、1時間が瞬く間に過ぎてしまいました。このインタビューの模様について、何回かに分けて書いて行きたいと思います。今回はその第四回目ですが、トニー自身の「幸せ度」や、「幸せの条件」、そして、「人生の意義」について訊き、彼の人間像に迫ります。

ザッポスCEOトニー・シェイとのインタビュー風景

石塚:
一般的に言って、社員に対しては「高い給料」、顧客に対しては「良質な商品やサービス」を提供することが幸せにつながると考えている企業が多いように思いますが、ザッポスではそういった「幸せ」の考えに対して異義を唱えていますね。金銭や利益やその他の物理的なものが「幸せ」の促進要因であるとする考え方から、人生や仕事における「意義」の追求や、人と人とのつながりなどを基盤とする新しい「幸せ」の捉え方へと企業が意識を変えていくためには、まず、どのような方策がとられるべきと思いますか。

トニー・シェイ:
人事関連の研究報告書を見てみると、「お金」が社員の満足度の促進要因でないことは数値的にも立証されています。どんなリサーチ結果を見ても、「衣・食・住」といった基本的な欲求が満たされている限り、「お金」を満足度要因のトップに上げる人はほとんどいません。せいぜい四番目か五番目です。だから、「社員の幸せはお金では買えない」というのは、別にザッポスが言い始めたことではなくて、世間的にも立証済みのことなんです。つまり、社員により高い給料を与えることで満足度を上げようというのは、企業にとって、いわば「お金の無駄遣い」なのです。社員が楽しく、やりがいをもって働ける企業文化をつくること、また、個々の社員が、直属の上司とより良く、より近しい関係を築ける環境をつくることに注力したほうが、よりコスト効率的に、社員の幸せを実現することができます。

もうひとつの指標として、「職場にどれだけ友人がいるか」、あるいは、「職場に親友がいるかどうか」は、社員のエンゲージメントや生産性に大きな影響をもたらします。企業のリーダーというのは、そういった職場環境をつくることに努力を注ぐべきで、ただ給料を上げればいいというのは、まったく「怠慢極まりない」経営管理の方法だと、僕は思います。

ザッポス本社入り口付近の風景

石塚:
1を最低、10を最高とすると、今、あなたはどれくらい幸せですか。
(注:「幸せ」の研究の一環として、トニーはこの質問をよく人にするそうです。ですから、今日は私が彼にこの質問を投げかけてみました。)

トニー・シェイ:
最近は、平均して8.5点くらいかな・・・。

石塚:
8.5点・・・。それを10点満点にするには、何が必要だと思いますか。

トニー・シェイ:
う~ん、どう答えたらよいかな・・・。それは、ある意味では「微妙な質問」だと僕は思うんですよね。なぜかといえば、「幸せ」というのは、「目的地」ではないので・・・。

幸せの研究を通して僕が辿りついた結論ですが、人が幸せであるための必須条件のひとつとして、「常に前進している」ということがあると思います。だから、幸せを目的地と考えて、「ようし幸せになった。これで終わり」というのは、あり得ないと思うんですね。前進するのを止めた途端に、人は不幸せになってしまうと思うので。

人と人とのつながりも同じですよ。「これで最高、もうこれ以上は良くならない」というのではなくて、「時を重ねれば重ねるほど、ますます強固なつながりを築ける」という実感があるからこそ、人は人とつながっていることを、「幸せ」として感じることができると思うんです。

石塚:
つまり、幸せを「プロセス」として捉えて、その過程において常にさらなる前進を考えているということですか。

Ub|XZ~i[トニー・シェイ:
幸せというのは、それを維持するだけでも、継続的な前進や向上が必然だと僕は思うんです。だからといって、僕が、「どうやったらもっと幸せになれるのかなあ・・・」と考えて眠れない夜を過ごしているというわけではないんですけど・・・。でも、『Delivering Happiness(邦題:ザッポス伝説)』を通して僕が訴えたかったのは、「お金」だとか、幸せの条件として一般的に考えられていることは必ずしもそうではないんじゃないか、「幸せのフレームワーク」を理解することで、より長い目で見た幸せを手にするためのより良い意思決定ができるんじゃないか、ということなんです。

例えば、定期的にエクササイズをする人は、そうでない人と比べてよりハッピーだと言われていますね。僕はといえば、本当は、エクササイズをする気にはあまりなりません(笑)。どちらかといえば、「やりたくないけど、やらなくちゃな・・・」といやいやながらジムに通っています。だけど、エクササイズを20分くらいやれば、それだけでも気持ちが高揚して、その「ハッピーな気分」を少なくとも24時間は持続することができる、だから、僕はいやでもエクササイズをするんです。もし、メリットがなかったら、エクササイズなんてやっていないと思います。それと同じで、「何が、自分をハッピーにしてくれるのか」、そのメカニズムやフレームワークがわかっていれば、人はより良い意思決定をすることができる、と僕は思っています。僕の本を、そんな風にも役立ててもらえたらと思っています。

ザッポスCEOトニー・シェイが自分のデスクで仕事する風景

石塚:
日本の読者からの質問をひとつ訊かせてください。あなたにとって、「人生の意義」とは何ですか。

トニー・シェイ:
それは、僕の本の題名にもなっているんですが、『Delivering Happiness(幸せを届けること)』。つまり、僕自身やザッポスだけでなく、他の会社や人にも影響を与えることによって、より幸せな世の中をつくることだと思っています。

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