アメリカの人事採用に学ぶ、ツイッター就活

昨今、日々の生活を考えてみると、通信、ショッピング、あるいは娯楽など、あらゆる活動の基盤がウェブに移行していることがわかります。アメリカの若い世代の間では、メールではなく、SNSで友達と連絡をとり、モールにたむろするのではなくネットをブラウズし、ユーチューブで映像を見て楽しむ、というのが珍しくなくなってきています。このように、一般消費者の生活基盤がウェブに移行することを、私は、市場の「クラウド化」と呼んでいるのですが、今日は、初春にタイムリーな話題として、クラウド化が就活に与える影響について書いてみたいと思います。
企業が競争に勝ち残って行くためには、時代のニーズを読み、それに対応していかなければなりません。それと同様に、これから社会人生活を始めようという若い人たちも、時代の流れにあわせ、今日的な努力をしていかなくてはならないと思います。
今日、時代という激流を泳ぎきるための努力のひとつは、クラウドの中のコミュニケーション・リテラシーを身につけることです。つまり、ブログや、SNSや、ツイッターなどいろいろなプラットフォームを通して、どのように自己表現するか、あるいは、人とつながっていくか、個人でも、そういった戦略を真剣に練って、遂行すべき時代が来ていると思います。
アメリカでは、応募者のクラウド内での活動をスクリーニングして、採用の是非を決めるという会社が増えています。採用担当者の大半が、応募者の名を「グーグル」するといいますし、また、SNSやツイッターをスクリーニングに用いるという企業も少なくありません。素行の悪さが疑われる言動や写真がある場合、前職の悪口や企業秘密の漏洩などが疑われる場合は勿論採用不可ですが、かといって、「グーグル」しても何も出てこない、というのも問題視されるそうです。このクラウドの時代、ソーシャル・ツールの使い方も知らなくては戦力にならない、ということだろうと思います。採用担当者がこういうプロセスをとっているのですから、当然、それに見合った就活対策を考えていくべきです。
数多あるソーシャル・ツールの中で、ツイッターは、就活者がクラウド上のブランドを築き、長期的に意義あるネットワークを築いていくための格好のツールだと私は思っています。アメリカでも、「個性」、「創造性」、「人間性」、「コミュニケーション能力」、「知識/経験」、「人望」などをキーワードに、応募者のツイッター活動を観察して、採用の評価を下す会社が増えていると聞きます。
日本でも、つい最近、日経の3月8日付けの朝刊に、ECナビのツイッターによる採用活動の記事が載り、大いに話題になりました。ECナビの宇佐美社長自ら、ツイッターで告知をし、ツイッターのみで応募を受け付けたところ、一週間で返信が百人を超えたとか。ネットの会社への就職を希望する人の適性として、ツイッターのような新しいツールを使いこなせることが問われる、ということもあると思いますが、なにより、「個」の時代に、自分を表現する力、人とつながる力をもつ人材が、ネット、リアルを問わずどんな企業においても強く切望されているのだと思います。
「ツイッター就活テク」はさておき、私がまずお勧めしたいことは、ツイッターのようなクラウドのツールを活用して見聞を広めることです。昨今、「自分ブランド」などということがよく言われていますが、特に若い頃は、「自分が何をやりたいのか」はおろか、「自分が人間としてどうあるべきか」ということさえわからないことが多くあります。「何を発信するか」ではなく、まず、「聴く」ことに重きを置くこと。世の中の人が何を言っているのかに耳を澄まし、人の意見を謙虚に受け止めてみることによって、自分というものがよりクリアに見えてくると思います。
そして、「自分が何をやりたいのか」のフォーカスが定まったなら、自分が学びたいことを発信している人と、物怖じせずどんどんつながっていくことです。自分が就きたい職業や極めたいフィールド、働きたい会社の関係者にフォローしてみます。つぶやきを通じて、自分が志望する会社のカルチャーを知ることも極めて重要です。
ザッポスのように、働く人の価値観と、会社の価値観とのマッチング、つまり、「文化適性」に気を配る会社は、就活者を「知る」ためのひとつの材料として、個々人のソーシャル・メディア活動にも注目しています。今後は、こういった企業が増えてくるでしょうし、裏返して言えば、就活者も、自分を知ってもらうためのツールとして、従来型の履歴書に勝るとも劣らぬ注意を、ソーシャル・メディア活動に注いでいくべきと思います。
最後に、何より忘れてはならないのは、ツイッターなどのソーシャル・メディアも、礼節や常識という点では、従来型のコミュニケーション・メディアと変わらないということです。例えば、日々の会話でネガティブ発言が多い人は、対面でもツイッターでも好印象を抱かせないものです。アメリカの人事関係者に聞くと、ネガティブなつぶやきが多い人は採用不可であるといいます。自分の職場や同僚、あるいは取引先についてネガティブな発言をする傾向があるとみなされるからです。また、ウェブ上の記録は半永久的に残ります。一度放出してしまったら最後、撤回できないのだということを肝に銘じつつ、責任ある発言を心がけるべきだと思います。
企業も個人も、「ソーシャル・メディア」というと、何か特別なもののように扱いがちですが、従来のコミュニケーション・メディアにとって代わるものでは決してないと私は思っています。ツイッターをやるからといって、人と会って話を聴くことをやめるべきではありませんし、面接で自分をアピールする必要性がなくなるわけでもありません。ただ、ウェブの恩恵で、個人が不特定多数の人に自分の意見を伝えたり、人とつながったりするスケールとスピードが増幅されたということは大いにあります。この「時代の進化」を味方につけるような、賢い活用をしたいものです。