シアトルに本拠を置く、テクノロジー系ビジネス・メディアが、ザッポスCEOトニー・シェイをインタビューしていました。とても鋭い質問が多かったので、サマリーをひとつ。
「アマゾンに買収されてもう1年以上たったが、ザッポスで何か変わったことは?」
先日、サンタモニカで公開講演を行った際にも、こういった質問がオーディエンスから投げかけられていましたが、これに対するトニーの答えはいつも次のようなものです。
「ザッポスが独立した単体として、アマゾンとは異なる独立した文化を維持し、独立した経営を行う、というのが買収合意における絶対条件だったので、ザッポス社内で変化は特にない。大きな違いは、かつては四半期に一度サンフランシスコに行って財務報告を行っていたけど、今はシアトルに行っているというだけのこと」
私もアマゾン買収以来、何度もザッポス本社を訪ねていますが、根本のところでは変化がないように見受けられます。
今回のインタビューの中で、私の注意をひいたのは、長年COO兼CFOを務めてきたアルフレッド・リンの後任として、現アマゾン社員の就任が決まったということ。「それでも、ザッポスの経営に対するアマゾンの影響はないということですか?」という質問に、トニーは、「アマゾンに雇えと仕向けられたわけではなく、買収後の1年間ほどの付き合いを通して、ザッポスのカルチャーにとても合う人だと思ったので、ザッポスで通常行う採用のプロセスを踏んでもらった」と答えています。問題の後任は、クリス・ニールセンという人で、もともとアマゾンとザッポスの「リエゾン役」として働いていた人だったとか。
また、「あえて変わったことといえば・・・」という口調で、トニーはザッポスの返金プロセスを挙げていました。アマゾンに買収されて以来、ザッポスで大きく改善されたことのひとつは、キャッシュ・フロー。それまでは、どこまでも顧客志向のザッポスとしては大きな悩みのタネだったのが、返品時の返金に要する時間の長さでした。かつては、ザッポスで返品があった場合、お客様のクレジットカードに返金手続きをするまでに10日間くらいの日数がかかっていたそうです。それを、ザッポスでは、「お客様の気持ちを考えたら、10日というのは時間がかかりすぎる。せめて5日間くらいにできないか・・・」と気に病んでいたそうです。しかし、今まではキャッシュ・フローが大きな問題だったので、どんなにお客様のためにそれを改善したくても、できなかった。それが、アマゾンに買収されて、キャッシュ・フローが改善されたために、めでたく実現したのだということです。
『長期的視野で考える』こと、そして、『顧客第一主義である』という点で、アマゾンとザッポスはよく似通った会社です。それでも、買収や合併が起こった際に、二つの会社がお互いにまったく影響を受けない、というのは普通はあり得ないのですが。でも、この二社の場合、「影響」というのは、恐らく良い影響になると思います。アマゾンとザッポスが似通った価値観を共有する会社であるのは本当ですから、今後もお互いから学び、相乗効果を起こして、顧客のためにより高い価値を提供する会社になると期待しています。