「革新」の定義を塗り替えるザッポス

NRF(National Retail Federation:全米小売業協会)の年次カンファレンス「BIG SHOW」が、10日からニューヨークにて開催されている。その席で、ザッポスが二つの栄誉ある賞を受賞した。
ひとつは、優れた顧客サービスを称える「Customers’ Choice Award(カスタマー・チョイス・アワード)」、もうひとつは、「Innovator of the Year(イノベーター・オブ・ジ・イヤー)」と呼ばれるもので、その年、アメリカの小売業で最も革新的であると評価された企業に与えられる賞だ。
「カスタマー・チョイス・アワード」の方は、ザッポスが上位10位にランクインするのは2007年以来三年目で、ランキングは昨年と変わらず第三位だ。親のアマゾンはザッポスに続き第四位。一位と二位は、アパレル・リテーラーのL.L.Bean(エル・エル・ビーン)と、ネット通販のオーバーストック・ドット・コムが占めた。これら上位二社も昨年と変わらずで揺ぎ無い。
「カスタマー・チョイス・アワード」は、米国全域から、8,600人の消費者を対象とした意識調査をベースに決定される。小売業者の規模や地理的カバレージ、またフォーマット(店舗、カタログ、ネット、TV通販など)に関係なく、「顧客サービスが最も優れている企業」を顧客に名指しで選んでもらって、それに各企業の業績を掛け合わせて評価するという。
「カスタマー・チョイス・アワード」もさることながら、ザッポスが、「最も革新的な小売業者」として評価されたことが、同社に早くから注目してきた私としてはまるで我がことのように嬉しかった。ザッポスが昨年、米国のビジネス誌「ファスト・カンパニー」の、「世界で最も革新的な企業ベスト50」ランキングに選ばれた時も思ったのだが、近年、ビジネス界で、「何をもって革新とするか」という定義が大きく変わってきているように思う。
ちょっと前のことになるが、文部省によって「言い換え語」が発表されたとき、英語のInnovation(イノベーション)は「技術革新」と言い換えられていた。この例にもあるように、長い間、「革新」という言葉は、「技術革新」という言葉とまるで同義のように扱われてきたと思う。ドット・コム全盛であった90年代や2000年代の初めはこれが最たるものだった。「革新的な企業」といえば、ビジネスに最先端のテクノロジーを活用することや、先進的な研究を経て、斬新な商品や知的財産を開発することばかりがクローズアップされてきた。
ザッポスの場合は、企業文化に徹底的な戦略的フォーカスを置いていることが評価されている。オープンで透明性の高い文化、社員の幸せを何よりも重視した文化を築くことが、企業という共同体に対して並々ならぬコミットメント(感情的投資)をもった社員を生み、それが、唯一無二の感動サービスや、熱烈なファンを生んでいるということが称えられている。ソーシャル・メディアという新しいテクノロジー・フォーマットの活用にも言及はされているが、それはあくまで、企業文化という戦略的基盤があって初めて成立したものだと明確に理解されている。
最先端のテクノロジーを活用することそのものが、「革新」ではないことを、ザッポスは立証している。最先端のテクノロジーを活用した上での、普通を超越した成果を可能にする仕組み、環境づくりこそが、「革新」であることを、ザッポスは身をもって証明した。それが、アメリカの流通業界における、ザッポスの大きな貢献であると私は思っている。
ところで、国際部門では、日本のファーストリテイリングが、「リテーラー・オブ・ジ・イヤー」を受賞した。これは日本人としてはとても喜ばしいことだ。授与式でMC(マスター・オブ・セレモニー)を務めたコンテイナー・ストア(アメリカでは、卓越したサービスで知られるリテーラーだ)社のCEO、キップ・ティンデル氏も、「(小売業に関わる者なら)誰でも、ニューヨークのSOHOにあるユニクロに一度は行ってみるべきだ」と絶賛だった。ファスト・リテイリング社の柳井代表取締役も、「リテール業界で最も敏速で、最も恐れを知らぬリーダーだ」と高い評価を受けている。
例年注目しているNRFの年次カンファレンスだが、今年は、私にとっていろいろと感慨深いイベントだった。