「社員一人ひとりが率先する」という企業文化へのアプローチ:評価額3兆円のベンチャー企業、エアビーアンドビー訪問記③

「オーナーシップ意識」の希薄化とどう戦うか

ザッポスは優れた企業文化で有名な会社ですが、そのザッポスでさえ、「企業文化の正念場」に立たされたことがあります。数年前にCEOトニー・シェイと話をしている時にそう感じました。当時、ザッポスは凄まじい急成長の真っただ中にいて、全社員の約半数が勤続年数2年未満という事態に直面していました(注:離職率が上がったということではなく、新規雇用のスピードがあまりにも急速であったため、社員の半数が比較的「新顔」という事態に陥ったのです)。その結果、社員間の企業文化に対する「オーナーシップ意識」が希薄化するという難題が浮上していたのです。

これは何もザッポスに限ったことではなく、実はどの会社にも起こり得ることで、企業文化育成のライフサイクルにおけるごく自然な現象です。何をどう間違った、ということでもありません。いかなる企業文化にも、「創成期」と「成長(浸透)期」と「維持期」があります。もっとわかりやすくいえば、企業文化やコア・バリューの定義に自ら直接かかわった世代の社員たちは、企業文化やコア・バリューを「わが物」と感じ、より強い愛着を持ちますが、それらを「受け継いだ」世代の社員たちはどうしても「借り物」のように感じ、一歩離れた感覚で接する傾向にあるということです。

どんなに熱意を注いで、手塩にかけてつくりあげたコア・バリューでもいつかは「古く」なります。だからといって定期的に更新するというわけにもいきません。いかにして、コア・バリューを日々「息づく」ものとして、「フレッシュに」保つか、働く人たちに「わが物」と思ってもらえる環境をつくるか、ということが重要な課題になります。

エアビーアンドビーの企業文化やコア・バリューについて、「オーナーシップ意識」をもってもらうためにどんな工夫をしているのか、レヴィー氏とチップさんにきいてみました。

チップ・コンリー(戦略およびリーダーシップ社外アドバイザー:右)、マーク・レヴィ(従業員エクスペリエンス担当:左)

 

社員一人ひとりが発信者

「企業文化に対する私たちのアプローチは『社員一人ひとりが率先する』ことです」

社員一人ひとりのコミットメント・レベルを、「自分こそがエアビーアンドビーの企業文化の発信者だ」と考えるまでに育むこと、これがレヴィさんが目指しているところなのです。

会社の日々の生活に「企業文化やコア・バリューが息づく」ようにする、そんな環境をつくる仕事を任せられた「グラウンド・コントロール」と呼ばれる人たちがいます。

エアビーアンドビーの社内の「用語」の多くが航空用語を借りたものになっていますが、「グラウンド・コントロール」は管制塔。レヴィ氏が率いる従業員エクスペリエンス担当部門に所属し、職場環境や社内コミュニケーション、報奨、誕生日や入社記念日などのお祝いごとを取り仕切ります。サンフランシスコの本社には10人程度の「グラウンド・コントロール」チームが、そして、世界19か所にある各営業所にも、少なくとも一人は「グラウンド・コントロール」担当者がいるそうです。

また、新しいオフィスをオープンする際には、必ず「ランディング・チーム(着陸チーム)」と呼ばれる立ち上げチームが結成されます。このチームの使命は新たなオフィスにエアビーアンドビーの企業文化を移植することです。チーム・メンバーは異なる機能分野から抜擢され、それぞれ異なる職を持っていますが、立ち上げ期間には新しいオフィスに配属され、オフィス内の物理的な環境を整えたり、地元チームの採用面接を行ったりします。一定の期間が終わり、新規オフィスの状況が落ち着いたら、ランディング・チームはそのオフィスの日々の運営を担うリーダーシップ・チームに引き継ぎをし、元の部署・ロケーションに戻ります。新規オフィスが存在する国や市場の文化や慣習に敏感でありながら、エアビーアンドビーの企業文化を熟知した人が抜擢され、「ランディング・チーム」として活躍するそうです。例えば、中国にオフィスをオープンするのではあれば、アメリカの大学を卒業し、アメリカ国内のエアビーアンドビーで働いたことのある中国人社員が抜擢されて「ランディング・チーム」として送り込まれるといったようにです。

社員が率先して企業文化/コア・バリューを守り立てていくという姿勢は、社内イントラネットの活用によるところも大きいようです。

社員数が多くなり、社内の全員がお互いを「知る」ことが難しくなってきたり、また、地域的に分散されていて社員間の「触れ合い」が難しくなってきた時に、企業文化育成/維持の道具として社内イントラネットが導入されることがよくあります。

エアビーアンドビーでは、イントラネットで社員の誕生日や入社記念日などの「お知らせ」をしたり、また、各社員の「プロフィール・ページ」を設けて、世界中の社員が地域の障壁を超えて、所属部門・部署や職種に関わらず交流できるようにしています。イントラネット上の掲示板は、社員同士が情報交換をしたり、イベント告知をしたりなどといったことにも使われますが、会社の中の振る舞いについて注意を促したりするのにも使われます。

使い終わった食器が公共のスペースに放置されている写真と共に「自分の後始末は自分でしましょう!」などと呼びかける掲示があるそうです。これは別に社内に風紀委員がいるのではなく、一般社員が気づいて自発的に呼びかけているのです。コア・バリューの「ホストであれ」-触れ合う人を皆「ゲスト」と捉えて、「ここが自分の居場所」と感じてもらえるように振舞おう-ということを実践しているということです。

 

社員3,000人が集う「ワン・エアビーアンドビー」

一昔前には、設立からわずか9年目の会社が世界191カ国で事業を運営し、19か所に営業所を持つというのは考え難いことでした。エアビーアンドビーは、ひとつの会社としての統一(グローバル)と、地域性の尊重(ローカル)という二つの側面に注意を払いつつ企業文化を継続的に強化していくことを目的に様々な工夫をしています。なかでも、最も大がかりなものが、世界各地から社員がサンフランシスコの本社に集結して開催される「ワン・エアビーアンドビー」です。ただの「社員カンファレンス」と呼ぶにはもったいないほど演出豊かでハートのこもった3日間のイベントです。2017年の1月には世界中から約3,000人が集まり、経営陣による指針発表や、社員同士がチームを組んで課題に取り組むワークショップ、本社社員が「ホスト」になり、他地域から訪問している社員を「ゲスト」として招いて行われるディナーパーティなど、盛りだくさんのプログラムを通して、エアビーアンドビーの企業文化とコア・バリューを体感し、「Airfam(エアビーアンドビー・ファミリー)」としての結束を高める機会としています。

チップ・コンリー(戦略およびリーダーシップ社外アドバイザー:左)、石塚しのぶ(ダイナ・サーチ代表:中央)、マーク・レヴィ(従業員エクスペリエンス担当:右)

ざっと書き連ねただけでも、大きなことから小さなことまで、また、組織的に管理されていることから社員個々人が率先して行うことまで、常時、ありとあらゆる「企業文化育成の取り組み」が同時進行しているのがエアビーアンドビーの特徴です。その根底にあるのは、創設者が「デイ・ワン」から「企業文化/コア・バリューを経営戦略の中核」と捉えて、意識的かつ地道な努力を自ら払ってきた事実に他なりません。「やらされ感」が漂うことの多い企業文化の取り組みですが、エアビーアンドビーを訪問して、本社の空間全体にみなぎる明るくポジティブなエネルギーに、社員から会社というコミュニティへのホンモノの愛情と使命への情熱をひしひしと感じました。