すべての人が『ここが自分の居場所だ』と実感できる世界をつくる: 評価額3兆円のベンチャー企業、エアビーアンドビー訪問記①

「企業文化をぶち壊すな!」

先日、世界最大の「空き部屋(短期レンタル)」のマーケットプレイスとして知られるエアビーアンドビー(Airbnb)の本社を訪問してきました。

エアビーアンドビーといえば、設立9年めにして、評価額300億ドル(3兆円)を誇り、191カ国57,000都市を対象市場とする、まさに「ネット時代の申し子」のようなビジネスなのです。

さらに、エアビーアンドビーは、設立当初から企業文化に焦点をおき、それに「戦略的に」取り組んできたことでも知られています。共同創設者でありCEOのブライアン・チェスキーが、シリコンバレーの天才投資家ピーター・ティールの「Don’t F**k up the Culture(企業文化をぶち壊すな)」というアドバイスに忠実に従ってきた結果、2015年には企業情報の投稿サイトglassdoor.com(グラスドア・ドット・コム)により、「最も働きたい会社」に選ばれ、グーグルやフェイスブックなどという有名企業からも、その企業文化に魅了されて転職してくる人が絶えないという今、サンフランシスコ・ベイエリアで最も話題の会社なのです。

エアビーアンドビー本社オフィス

今回、念願叶い、2015年にオープンしたばかりの新社屋に訪問し、同社の企業文化育成の立役者であるチップ・コンリー氏(戦略アドバイザー)とマーク・レヴィ氏(社員エクスペリエンス・グローバル担当責任者)のお話を聴くことができました。

 

ただの会社でも、仕事でもなく、「ムーブメント」

数回のブログに分けてこのご報告をしていきたいと思いますが、今回、訪問の際に特に心に残った言葉があります。インタビューに応じてくれたレヴィー氏の言葉です。

「エアビーアンドビーは、ただの会社でも、仕事でもない。『ムーブメント』なのです。あらゆる障壁を打ち崩し、誰もがどこにいても『ここが自分の居場所だ』と感じられるような世界をつくることを夢見て、エアビーアンドビーの社員たちは日々、このオフィスに来ている。それが、エアビーアンドビーが他社と一線を画す点なのです。」

エアビーアンドビーの「生い立ち」は、共同創設者であるブライアン・チェスキーとジョー・ゲッビアが、若きデザイナーとしてサンフランシスコのフラットで共同生活をしていた時まで遡ります。2007年のことです。

産業デザインの国際カンファレンスがサンフランシスコで行われた際に、リビングルームにエアベッドを3台置き、簡単な朝食つきの簡易宿泊施設として遠方からの参加者に提供するというアイデアを思いつきました。ブログで宣伝を出したところ、一人あたり80ドルのリスティングに瞬く間に買い手が見つかり、これがエアビーアンドビーのビジネスの始まりだったのです。

サンフランシスコの高い家賃に窮している二人の若者が始めたビジネスは、自分の家やアパートの中に「空き部屋」を持っている人と、旅行者など「滞在先」のニーズを持つ人たちがお互いを見つける「場(プラットフォーム)」を提供するものでした。しかし、ただのマッチングサイトと一線を画したのは、部屋を貸し出す人たちには、ただ単に追加の収入の機会を得るというよりは、他の土地からやってくる人たちと触れ合う機会を与え、また、部屋を借りる人にとっては、旅行者でいながら、まるでその土地に「住む」かのようなユニークで夢のある体験を提供するというヴィジョンだったのです。

 

誰もが「ここは自分の居場所だ」と実感できる世界をつくる

エアビーアンドビーの使命は「誰もが『ここは自分の居場所だ』と実感できるような世界をつくること」。この使命が、同社の物理的な「職場環境」のデザインから、社員の「働き方」に対する考え方、「空き部屋」を提供する「ホスト」コミュニティとの関係性に至るまで、エアビーアンドビーの「在り方」の基盤になっているのです。

チップ・コンリー(戦略およびリーダーシップ社外アドバイザー:左)、マーク・レヴィ(従業員エクスペリエンス担当:中央)、石塚しのぶ(ダイナ・サーチ代表:右)

このブログでは、数回に分けて、エアビーアンドビーの本社を訪問して私自身が得た洞察や、同社の企業文化構築のアプローチについてその立役者である二人からお話を聴いて学んだ/感じたことをお話していきます。特に、エアビーアンドビーではつい最近、以前6個あったコア・バリューを4個に絞りこむという大きな決断を下したのですが、その「コア・バリュー刷新」の背景や、社員主導の「企業文化育成」を可能にする組織や仕組みを中心に書いていきたいと思います。