コア・パーパスとコア・バリューの追求で独自性溢れるイノベーション文化を育成:日本自動ドア株式会社訪問記

先日、11月の出張時には東京都中野区にある日本自動ドア株式会社さんの本社を訪問させていただきました。

日本自動ドア株式会社は、その名のとおり、自動ドアの専業メーカーであり、主にコンビニやコーヒーショップなど一般店舗を対象にサービスを提供されています。全国での納品台数は20万超。年間の販売台数は1万台にも上ります。

1966年に創業され、今年で50周年を迎えられたのですが、次なる50年の事業存続・繁栄を目指していかれるにあたって、「会社の文化と価値観をより一層磨いていくこと」を最優先課題として掲げられています。今回は会社のコア・パーパス(社会的存在意義)とコア・バリュー(中核的価値観)がいかに同社の独自性確立に戦略的に貢献しているのか、代表取締役社長の吉原二郎さんの哲学と具体的な取り組みについて話を伺いました。

日本自動ドア、吉原二郎社長とダイナ・サーチ石塚

人間主義

日本自動ドアの文化を語るにあたって極めて顕著なのは、事業や組織の細部にまで貫かれた人間主義です。

同社のコア・バリューの冒頭にも「人格」と「正しい心」が掲げられています。社員の一人ひとりが日々の努力を通して人格を磨き「尊敬される集団」になることを目指しているということです。

それは「成長の文化」とも、「向上の文化」とも呼べると思います。

日本自動ドアでは、毎年、全社員に会社特製の手帳を配布するのですが、この手帳には、経営理念や組織運営上のルール、経営方針などが記されているばかりではなく、会社のコア・バリューについて自らの実践度を振り返るチェックリスト、個人のマイ・パーソナル・コア・バリューを書き込めるページや、年間目標や月間目標を書き込めるページ、さらには今後30年の人生計画を立てるページもあります。こういった「ツール(道具)」を与えることにより、社員の一人ひとりが自分の成長に向けて具体的な努力をしていけるような環境をつくっているのです。

また、社長の吉原さんが心に響いたことを社員の皆さんと「共有」することにも実践的に取り組んでおられます。フランスの作家ジャン・ジオノの短編小説『木を植えた男』の本を購入し社員に配布したり、同社のコア・バリューに通じる体験を皆で共有し、あの手この手をつかってコア・バリューの理解を深めてもらうことに力を入れているのです。

50周年を迎えた今年には、吉原さん自らが朝礼で行ってきた講話・エッセイ集を小冊子にまとめ全社員に配布しました。私も一冊分けていただきましたが、「これからの時代に向けて会社がどういう方向に進んでいきたいのか」「無心になって技を磨く(プロフェッショナリズムを極める)」「『あきんど』としての流儀」「思いを必ず実現させる生き方」など、社員さんたちに知ってほしい吉原さんの想いがじんじんと伝わる素晴らしい本になっています。

コア・パーパス(社会的存在意義)から「やりがい」を醸成する

日本自動ドアでは、社員に対する約束として、生きがいと物心両面の幸福の実現を掲げています。そして、そういった「幸福感」の源となるのが会社の社会的存在意義「コア・パーパス」であると考えています。

「コア・パーパス(=自動ドアの存在意義)」について考え始めたのは、吉原さんが二代目として代表取締役社長に就任してから。「自動ドアは必要か?」というネット上の書き込みをきっかけとしてのことだったそうです。単に開いて閉まる機械装置を売っているのではなく、「手でドアを開閉することにデメリットを感じている全ての人々の悩みを解決すること」を使命に掲げています。その使命を基盤に、1.感染症予防、2.バリアフリー化、3.省エネ社会の実現、4.入退室管理を通じた防犯対策、5.環境災害/自然災害から居住者を守る、という「五つの存在意義」を定め、イノベーションの糧としています。

自動ドアの開発・生産(つくる)から施工(つける)、保守・メンテナンス(なおす)までを一貫して行う同社では、自動ドアに不具合が生じた時にはそれが夜中であろうと休日であろうと対応することが要求されます。休日・時間外出勤をしても拍手喝采されるわけではありませんが、そういった仕事を淡々と当たり前のようにこなすためには、会社の「コア・パーパス」を日々の業務に浸透させ、社員一人ひとりに常に使命感を感じて動いてもらうことが必要不可欠だと吉原さんは考えているのです。

創発イノベーション

日本自動ドアは「ものづくり」の会社であり、「創発イノベーション」を社風の根幹として位置づけています。「創発イノベーション」とは、全国に散らばって、各々のフィールドで活躍している社員さん同士が相互に啓発し、作用しあうことで技術の改良や新しい商品・サービスの開発といったイノベーションを誘発し、会社の成長につなげていくことです。よって、社内の役職や職種に関わらず「イノベーション精神」を育み、その実践を促していくことが極めて重要だと考えています。

例えば試みの一つとして、「アイデアの1000本ノック」という社内SNSがあり、社員さんが新商品やサービスのアイデアを投稿すると一本につき1,000円が支給されるのだそうです。投稿するのは開発スタッフではなく、一般社員がほとんどだそうですが、実用的なアイデアもあれば、突飛なアイデアもあります。アイデアの質の良しあしではなく、「アイデアを出す」ということが習慣化した企業文化の育成に大いに貢献しているということです。「チャレンジもせず、アイデアも出さず、惰性で生きる人生はつまらない。社員には元気で楽しい、ワクワクする人生を感じてもらいたい」という吉原さんの願いも込められています。

こういった「イノベーション精神の醸成」が事業上の実質的な成果にもつながっています。実績の一つとして「キッズデザイン賞」の10年連続受賞という快挙があります。

「キッズデザイン賞」とは「子供が安全に暮らす」「子供が感性や創造性豊かに育つ」「子供を産み育てやすい社会をつくる」ためのデザインに与えられる賞です。日本自動ドアは、これまでも「スローダウンドア」などの開発でこの賞を受賞してきましたが、今年は「子ども目線ステッカー」の開発に対して10回目の賞を受賞しています。これは、見る人の目線により表示が切り替わる注意喚起ステッカーです。子供の目線で見るとイラスト主体の表示がされ、大人の目線では文字主体の表示がされるようになっています。

キッズデザイン賞を受賞した子供目線ステッカー

また、近年では、新規事業部として「林業部」を設け、木製自動ドアの開発・商品化にも乗り出しています。これまでは表面にべニア板を貼って木製のように見せかけたドアが主流でしたが、ドアの本体が本物の木でできた自動ドアは一般の自動ドアとは全く異なる趣があり飲食店などにもてはやされています。

その他にも、医療施設や福祉施設、飲食店などを対象として、ドアノブや手のひらに汚染物質がどのくらい付着しているのかを測定・検査し、除菌用品を提案・提供、また、接触感染予防のための自動ドア化の提案をする「環境検査サービス」、卵の殻を加熱処理し、除菌剤を製造する事業など、先にあげた「五つの存在意義」を基盤とし、「自動ドア」という枠を超えた新しい領域へのイノベーションへと常に拡張を続けているのです。

コア・パーパスとコア・バリューの徹底が、人材育成や社内の環境整備、ひいては事業における独自性の確立へと波及している。本社を訪問し、社員の皆さんの活気溢れる様子を拝見しながらお話をお伺いして、強烈な刺激を受けた数時間でした。