いい経営者は「いい投資家」である

「いい投資家」と「悪い投資家」

優れた経営者は、「いい投資家」でもあります。

企業文化やコア・バリュー経営の調査研究を通して多くの企業の経営者に出会ってきた結果、「いい経営者とは、情熱と夢をもった経営者。そして『いい投資家』でもある」という結論に達しました。

反対に、私腹を肥やすことばかり考えている経営者、短期間に得られる見返りのことしか考えない経営者、帳簿のことばかりを気にして、どんな売上、どんな利益を上げられるかに神経をすり減らし、社員に目標を達成するように強いる経営者は、「悪い投資家」です。

それに対して、「いい投資家」は、いい会社をつくることを考えます。自分がいなくなった後も長く存続する会社をつくることを目指して、その器をつくるために、全身全霊を捧げます。

「いい投資家」は「企業価値」を上げることに専念する

長期的な視野をもっているから、短期的な「評価」や失敗に心を乱されたりはしません。利益追求第一主義ではなく、真の意味での「企業価値」を上げることに心を砕きます。「社員教育」や「いい企業文化の構築」に惜しみなく投資をします。その結果、社員が成長し、働き甲斐のあるいい企業文化が育成されれば、企業価値も上がるのです。

顧客価値を上げるのもこれと同じ理論です。顧客の「ロイヤルティ」が高まれば「生涯価値」も増して、企業価値の向上がもたらされます。だから、「いい投資家」は、顧客に「なくてはならない会社だ」と言ってもらえるような体験の創造に力を注ぎます。「いい投資家」にとっては、その活動にかかる資源は「コスト」ではなく、「投資」です。

例えばザッポス社CEOのトニー・シェイは、ザッポスの売上がまだ400億円にも満たない頃から、「最高のサービスの提供」「唯一無二の企業文化の育成」「社員教育」を優先課題として捉え、それらの整備に力を入れてきました。利益率の低さを批判する声もありますが、ザッポスは標準を大きく上回る社員ロイヤルティ、顧客ロイヤルティを育成することにより、グローバル・ビジネス界で最も尊敬、注目される企業となり、その企業価値を上げ続けています。

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ほんとうの意味での「企業価値」は、「時価総額」などの数値で測れないことが多いといえます。目の覚めるようなイノベーションで世の中を変える会社。社員にも顧客にも幸せをもたらす会社。それらはいずれも高い価値のある会社です。「いい投資家」は社会をよくする会社をつくることに専念します。時には失敗することもあります。「利益」がさほど上がらないこともあります。しかし、「いい投資家」にとっては、会社の価値>利益です。

長期的視野で挑戦を続けるのが「いい投資家」

会社の価値を上げることが利益を上げるよりも優先であり、会社が永遠に存続でき、社会に貢献できるための器をつくることが目的です。だからこの類の投資家は、自分がいなくても成り立っていくような組織づくりを行うことを目標に掲げます。自立する人間、自立する組織。つまり、社長がいなくなってもやっていける会社をつくるのが、「いい投資家」の目指すところです。そしてひとつの器ができると、次の器をつくる夢を抱いて挑戦を繰り返します。

会社が利益を上げていなければ社員が安心できず離職率も上がってしまうという声も聞きますが、果たして本当でしょうか。もちろんいたずらに赤字を出し続ける会社では話になりませんが、会社の目的や方向性を社員と共有したうえで、成長を促すための社員教育や、会社を良くするための企業文化育成活動、顧客サービスを良くする活動、つまり、企業価値を上げる活動に力を入れていれば社員が不安を感じることはないと思います。むしろ、給料やボーナスなど「お金」だけを目当てに働いているような社員が多い会社に未来はないのではないでしょうか。

イノベーション時代の経営者は、常に市場の動向に注意を払い、新しいサービスの提供や事業転換を視野に入れておかなければなりません。既存事業の継続だけにとらわれていては時代についていけません。中小企業の経営者にとっては、大きな成長を目指すのであればなおさら、短期的な見返りばかり求める「悪い投資家」ではなく、先を見越して考える「いい投資家」の姿勢が必要不可欠だと思います。