あなたはビジョナリ―?それとも・・・ ―スタートアップを飛躍に導くひとつの考え方―

ビジョナリ―とインテグレーター

テキサス州ダラスで行われたスモール・ジャイアンツのカンファレンスで、「スタートアップを飛躍に導く考え方」に関するスピーチがありました。その「考え方」の中核をなしているのは、「あなたはビジョナリ―(未来の展望を描く人)か、それともインテグレーター(まとめ役)か」という問いかけです。

ごく手短に言うと、スピーカーの主張は、「スタートアップを飛躍に導くためには、ビジョナリ―とインテグレーター両者の存在と協力が必要だ」というものです。往々にして、「起業家」という人種には、ビジョナリ―が多いですが、ビジョナリ―のアイデアを現実に近づけて、遂行していくためには、インテグレーターの力強いサポートが必要だということです。

 

大きな夢を描くビジョナリ―、慎重かつ現実的なインテグレーター

スピーチ・セッションの中で、ミニ・ワークショップのようなものがあり、我々聴講者が二つの質問書に回答しました。ひとつはビジョナリ―としての資質を見る質問書、もうひとつはインテグレーターとしての資質を見る質問書です。

スモール・ジャイアンツのセッションにて

スモール・ジャイアンツのセッション、ビジョナリーかインテグレーターか

ビジョナリ―は「アイデア・マン(ウーマン)」であり、業界や市場の全体像や傾向を直感的に掴むことができ、ネットワーキングに長け、優れたネゴシエーターである反面、次々と浮かんでくる新しいアイデアにエキサイトするあまりにフォーカスを欠く傾向にあり、整理整頓能力に乏しい、現実的でない、あきっぽい、などの欠点も抱えています。それに対して、インテグレーターは、コミュニケーションに長け、集中力に富み、チーム・プレイヤーである。物事に優先順位をつけ、理論的な判断をするのがうまく、安定性があり、実行能力に秀でているなど、ビジョナリ―に対して補完的な存在であるというわけです。しかし、常にあくまで慎重で、ビジョナリ―の描く展望についても容赦なく疑問を投げかけるため、ビジョナリ―と衝突しやすい、組織をまとめるため、人に嫌がられる仕事(例えば人を解雇するなど)も請負わなくてはならない、「縁の下の力持ち」であり、スポットライトを浴びたり、感謝されたりすることがなかなかない、などといったソンな一面もあります。

起業時には、ビジョナリ―とインテグレーターの「一人二役」をこなす起業家も多いわけですが、会社を「ロケット噴射」させるように飛躍的に成長させるためには、ビジョナリ―はインテグレーターを、そして、インテグレーターはビジョナリ―を「よき相棒」として見つけなくてはだめだ、という話でした。

 

ビジネス史に見るビジョナリ―とインテグレーター

アメリカのビジネスの歴史を見てみると、例えばヘンリー・フォードというビジョナリ―の陰には、ジェームズ・ク―ゼンスという優れたインテグレーターがいましたし、マクドナルドの創設者であるレイ・クロックの陰にはフレッド・ターナーが、ウォルト・ディズニーには兄のロイ・ディズニーがいました。日本の例を見ると、本田宗一郎には藤沢武夫という名参謀がいたなど・・・、「ビジョナリー+インテグレーター=ビジネスの成功」というセオリーは、歴史上の数々の実例によっても立証されているわけです。

 

スタートアップの成功に必要な、ごく基本的な人間関係のルール

スモール・ジャイアンツに限らず、世のすべての起業家にあてはまる話だと思いますが、最終的には、ビジョナリ―とインテグレーターの人間関係が、会社の成功や健康にも大きく影響してくる、ということが印象に残りました。

「常にビジョンを共有していることを確認する」「お互いの権限や責任管轄を侵害しない」「相互尊重」など。これらは、二人の人間が一緒に気持ちよく働き、成果を上げていくためにはごく常識的なルールのようにも思えますが、こういった基本的なことが、会社を成功に導くカギなのですね。「会社は人間の集合体である」ということ、そして、「共通の価値観(コア・バリュー)」をもつことの重要性を、改めて考えさせられたセッションでした。