ホラクラシ―:ザッポス、トニー・シェイの新たなる挑戦

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ザッポスの経営刷新:ホラクラシ―

米ネット通販会社、ザッポスが取り組んでいる経営刷新の試み「ホラクラシ―」が話題になっています。きっかけは、今年3月末(2015年3月30日)に、CEOのトニー・シェイが全社員に宛てたメールの中で、「新しい組織体制『ホラクラシ―』に賛同できない人は、4月30日までに申し出てください。3か月分の給料を退職金として差し上げます」という通達をしたことです。

そして、それを受けて、4月30日には全社員の約14%にあたるおよそ210人が自主退職を申し出るという結末になりました。そのニュースが、二週間以上が過ぎた今になって、アメリカの多くのビジネス・メディアに取り上げられ、大変な注目を浴びています。

 

「ホラクラシ―」は、「セルフ・マネジメント(自主的管理)」のシステム

今から1年くらい前に、私も「ホラクラシ―」という言葉を始めて聞きました。ザッポスのニュースがメディアに取りざたされるまでは、おそらく、アメリカの一般的なビジネスマンで、「ホラクラシ―」について知っている人はごく数えるほどだったのではないかと思います。2007年に、ソフトウェア開発における「アジャイル・プロセス」にヒントを得て考案された、企業の「セルフ・マネジメント(自主的管理)」のシステムであるといいます。

 

ザッポスは史上最大のホラクラシ―導入事例

ごく簡単に言えば、「ホラクラシ―」というのは、従来型の階層型組織を、いくつもの「サークル」により構成される、よりフラットな組織に変革するというものです。企業運営における課題ごとに「サークル」が形成され、その中で各自が権限と責任をもって仕事を進めていきます。これが、「ホラクラシ―」が「ボス不在」であると表現されるゆえんです。これまでにおよそ300社が「ホラクラシ―」の導入に手を染めてきたらしいですが、その多くがもっと小さな規模の会社であり、ザッポスのように社員数1, 500人級の会社が導入した前例はありません。

 

ザッポス社CEO、トニー・シェイの勇気ある探索:フラットで民主的な企業の「究極のかたち」を求めて

2008年にザッポスの本を書いて以来、トニーとは何度も会って話をしたことがありますが、彼は昔から、「企業文化」や「コア・バリュー(中核となる価値観)」を基盤として、できるだけフラットで民主的な組織を作ろうと試みてきたと思います。その方法論として行きついたのが「ホラクラシ―」なのでしょう。

しかし、前例がないのですから、既に出来上がった仕組みを導入するというよりは、ザッポスでは、給与体制や昇進・昇格など諸々の仕組みを「手探りで」「ゼロから作って」いかなくてはなりません。そういった実験的な試みに身を投じること自体、年商2,000億円をゆうに超える会社の長としては「ハイ・リスク」な挑戦だといえますが、そればかりではなく、「賛同できない人はどうぞお辞めください」とあえて促したトニーの行動を「向こう見ず」と評する人もいます。

しかし、私としては、彼の信念の固さや度胸にまたしても感服させられました。思えば、「企業文化が経営戦略の要である」とし、「コア・バリュー」を基盤とした経営を打ち立てた時も、トニーは自ら信じたことを徹底して追求してきたのです。そこに、トニー・シェイという人の非凡さと成功の根源があると私は思います。

今まで、「セルフ・マネジメント」の実践例・成功例として挙げられている会社の多くが、テクノロジーの開発会社や、より小規模な会社であることを考えると、ザッポスのように規模の大きな、ましてや性質の異なる会社(ザッポスはサービス業である)がホラクラシ―のような仕組みを実践していくことは決して容易なことではないと思います。ザッポス、そしてトニーに触れ、彼らから学ぶ機会を与えられてきた者として、並々ならぬ尊敬の念をもってして、ザッポスの今後を見守っていきたいものです。