会社にとって「かけがえのない人」になる秘訣:『Delivering Happiness』の立役者、キースに聞く

(2011. 2. 9)

キースに会って感じたのは、彼がとても「ザッポス的」な人だということでした。

「ザッポス」というと、社員が社内を練り歩くパレードや、奇想天外に飾り付けられたオフィスや、派手な趣向を凝らしたパーティなど、何かというと賑やかな側面ばかりが取り沙汰されます。

しかし、『ザッポスの奇跡』を発端として、私が過去2年間にわたるザッポスとの付き合いを通じて感じるのは、ザッポスがどれだけ人情深く、アットホームで、何より真摯な会社であるかということなのです。

そして、キースは、まさに真摯な人でした。
ケンタッキーにあるザッポス社の物流ケンタッキーのEロジスティクスの倉庫を一目見た時の驚きを彼はこう語ります。

「床にはまだ靴を積んだばかりのパレットがうず高く積み上げられ、散々な有様でした。何千足という靴が格納されることなく積んだままになっているのです。ザッポスのポリシーは、「リアルタイム・インベントリー」です。格納され、出荷できるステータスにならない限り、ウェブサイトに載せることはできません。床に積まれている時間が長ければ長いほど、ザッポスは日々販売好機を失うことになります。早急に手を打たなければならないことは明白でした」

倉庫業や物流の経験ゼロだったキースは、Eロジスティクスのオペレーションを「ビギナー」の目でくまなく観察しました。

トニー・シェイが自らプログラミングしたケンタッキーの物流センター「まず、我々の注意をひいたのは、格納の方法でした。Eロジスティクスの倉庫では、ブランドや商品ごとに一定のロケーションが指定されているという方法をとっていました。しかし、靴のように莫大なバラエティの存在する商品にとって、この方式は適切でないと我々は感じました。そこで、トニーが思いついたのが、『ランダム格納』というシステムだったのです。つまり、ブランドや商品によって指定のロケーションを設けるのではなくて、入荷された商品を空いているロケーションにランダムに格納していく。入荷される商品のひとつひとつに背番号(ライセンス・プレート・ナンバー)をつけて、倉庫内のロケーション番号と併せて記録することによって在庫を管理するのです。そうすることで、格納のスピードを数倍にも上げることができました」

画期的なアイデアを着想し、形にしていく上で、倉庫業や物流の素人であったことがむしろ幸いした、とキースは語ります。

「『WHISKY(WareHouse Inventory System in KentuckY)』と呼ばれるザッポスの初代倉庫管理システムは、トニー自らがコードを書き、プログラミングしたものです。ケンタッキーの倉庫立ち上げの時、私だけではなく、トニーもケンタッキーに六ヶ月間移り住んで、顧客の視点からフルフィルメントを考え、システムを開発したのです」

初期のザッポスは厳しい財政難に直面し、不安定な日々の連続であったはず、それでも、ザッポスをやめなかったのはなぜか、と聞いてみました。

「『固い決意』です。『なんとしてでも成功させねば』という決意があったからだと思います。私も、10年働いたユナイテッド航空を辞めての転職でしたから、『後戻りはできない』という気持ちがありました」

Ub|XZ~i[キースもそうなのですが、ザッポスを初期から支えてきた人々に会って話をすると、ひとつの共通項があることがわかります。それは、「経験や知識のあるなしに関係なく、目前に立ちはだかるチャレンジを何としてでも乗り越える」姿勢を持った人たちであるということです。そして、彼らのそういった人格をトニー・シェイをはじめトップ・マネジメントが見抜き、絶大な信頼を預けて、仕事を委ねてきたのだということは明白です。

「どうやったら、あなたのように、会社にとって『かけがえのない存在』になれると思いますか」

その質問に対してキースの口をついて出た言葉が、私にとって、「ザッポス」を象徴するもののように思えました。

ザッポス社の重鎮キース「私にとっては、『正しい』と思うことをやったまでです。『後悔したくない』という気持ちもありました。もし、自分が奮起しなかったら・・・、ありったけの力を振り絞ることがなかったら、ザッポスはどうなっていたか・・・。自分がやらなくても、もしかしたらザッポスは難局を乗り切れたかもしれない。だけど、後悔したくはなかったんです。そして、友達の期待に応えたい、がっかりさせたくない、という気持ちもありました」。

インタビューの中で、キースは、トニーやフレッドというザッポスの重鎮たちが、自分にとっていかに良い友人であるかということについて繰り返し語っていました。昨今、「社員エンゲージメント」についていろいろなことが語られていますが、私は、その根っこは何も小難しい理屈やセオリーではないのではないか、と思っています。自分の上司や同僚、部下が、自分の「友人」であり、「厚い信頼」が会社の中の人間関係の基盤となっていること。「友達を喜ばせたい」、「信頼を裏切りたくない」というシンプルな気持ちが、人間が底力を発揮する原動力なのではないかとあらためて考えさせられたのでした。

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