ザッポスCEO、トニー・シェイを親の目から見てみると・・・

(2011. 1. 11)

さて、新年早々にラスベガスにあるザッポス本社を訪ねてきましたが、今日はトニー・シェイのお父さん、リチャード・シェイ氏との対話について書きたいと思っています。

・・・でもその前に、ひとつ、皆さんにご報告しておきたいことがあるのです。
昨夜、私は真夜中の12時近くにロサンゼルスの空港に到着しました。それは、一泊二日でとあるところに行っていたからです。
どこに行っていたかというと・・・。実は、ケンタッキー(あのKFC発祥の地です!)にあるザッポスのフルフィルメント・センターに念願の訪問を果たしてきたのです。

ケンタッキー州にあるザッポスのフルフィルメント・センターの内部

ケンタッキーのフルフィルメント・センターには最初の本(『ザッポスの奇跡』2009年11月発刊)を書いた時から行きたいと思っていました。その後、フルフィルメント・オペレーションの担当副社長であるクレイグ・アドキンズ氏にも会うことがあり、「機会があれば、いつでも」と招待もいただいていたのですが、ケンタッキーというロケーションもあり、なかなか時間がとれずにいました。

しかし、今回、「時間がとれるまで待っていたら、いつまで経っても機会が巡ってくることはない!」と一念発起し、思い切って訪問することに決めました。

ケンタッキー州にあるザッポスのフルフィルメント・センターホリデー・シーズンの直後といえば、フルフィルメント・センターが返品業務でごった返す時期。「忙しい時にお邪魔なのでは・・・」と多少遠慮がちに訪問したのですが、皆さん、ザッポスならではのホスピタリティで歓待してくれました。

ラスベガスとケンタッキー。遠く離れていても、すこしもぶれることのないザッポス・カルチャーを体感してとても感激しました。

この訪問についても、ラスベガスのインタビュー・シリーズが終了後、書いていきたいと思います。

ラスベガスへの訪問に話を戻して、トニー・シェイのお父上、リチャード・シェイ氏との出会いについてです。

Ub|XZ~i[リチャード・シェイ氏については、台湾生まれの化学技術者であり、29もの特許所有者であることは噂で知っていました。トニーの自伝『Delivering Happiness(邦訳:ザッポス伝説)』の中の描写から、ちょっと固めの教育パパを想像していたのですが、実際に会って話をした感じは、気さくかつ社交的でエナジェティック、好奇心旺盛なジェントルマンでした。

「10分でもいいから、是非、話を聞きたい!」と急遽確保したミーティング・ルームで、席につくなり彼が取り出したのは、中国語訳の『Delivering Happiness』(中国語の題名は、『三足の靴』)。

「私が翻訳者です。中国でもよく売れていますよ」

と本を差し出すリチャードは、とても誇らしげで、微笑ましく思いました。

本と一緒に彼の写真を撮りたい、と私が持ちかけたら、

「こういう感じがいいかな」

と、自分なりのビジョンを持って、ポーズを提案してくれるところは息子さん(トニー)の雰囲気によく似ています。

delivering happiness(ザッポス伝説)の中国語翻訳者であり著者のトニー・シェイの父親でもあるリチャード・シェイ氏と記念撮影

トニーの本は、中国では、若いビジネス・ピープルやネット・ビジネス業界の人たちを中心に好評だそうです。中国でも有数の出版社が扱っているため、都市から離れた町の書店にも置かれているとか。

また、ちょっと意外なところでは、中国では、「どうやったら出来の良い子供を育てることができるのか・・・」という興味を持って読む人も少なくないのだそうです。

というわけで、「中国語版はただの翻訳ではなくて、中国語版にしかないおまけのセクションがあるんです」とはリチャードの談。

中国語版には、彼が書いた「翻訳者まえがき」があるのですが、そこには、トニー・シェイの生い立ちを父親の視点から綴っているのです。私自身は中国語は読めませんが、リチャードに貰った中国語版の本から、知人に翻訳してもらいました。

ところで、私には、「トニーの親御さんに会うことがあったら、いつか聞いてみたい」と思っていたことがあったのです。

今回、ついにリチャードに聞くことができましたが、それは、

「トニー自身は、自分の考え方や生き方に対する『アジア文化』の影響を頑なに否定するけど、本当のところはどうなんだろうか?」

ということです。

「父親の目から見てどう思いますか?」

と聞いてみました。

すると、リチャードは、にこにこしながら、中国語版『Delivering Happiness』を指差して、

「その中にも書いてあるけれど、ザッポスの『10のコア・バリュー』は、トニーを育てていく過程で、我々が大切にして、教えてきた価値観なんです。それをトニーが意識しているかどうかは別問題ですが」

ザッポスのカルチャーが、「古き良きアジア的」であるというのは、私も繰り返し指摘してきた点でした。しかし、この質問をトニーに投げかけるときまって、「僕はアメリカで生まれ育ったアメリカ人であって、アジアのことはよく知らない。影響を受けているとは思わないけど」という答えが返ってきました。

アジア的かどうかは別として、トニーが幼い頃から、社会への貢献やチャリティという感覚を親御さんから実践をもって教え込まれ、それを吸収してきたことは確かです。

中国語版『Delivering Happiness』のまえがきに、こんなエピソードがあります。

トニーが大学生だった頃、ある時、トニーのお母さんがハーバードにトニーを訪ねていきました。親子ふたりで近所を散歩していると、歩道にたむろしているホームレスたちが、「ハイ、トニー」と次々に声をかけてきます。

どういうことかというと、トニーは、大学の寮内でパンやその他の食べ物を調理し、ホームレスたちにふるまっていたのです。そういうわけで、トニーはホームレスたちと知り合いになるばかりではなく、彼らの人望を得ていたということだったのです。

トニーのお母さんは精神分析医ですが、トニーが子供の頃から、勤め先の病院で募金活動などを運営していて、トニーも幼い頃からその手伝いをしたりしていたそうです。トニーの高い社会性と「コミュニティ(共同体)」意識は、こういった幼少時の体験を通して培われたものなのかもしれない・・・。リチャードの回顧録を読みながら、トニーの天才児ぶりに驚かされるより何より、若かりし頃からの人間性に感銘を覚えたのでした。

ザッポス関連記事集へ

[PR]米国企業の企業文化・取り組みの事例にご興味のある方は、こちらへ→『未来企業は共に夢を見る~コア・バリュー経営~』『ザッポスの奇跡 改訂版』

【関連記事】