「社員が欲しいのは、やっぱりお金?」-ザッポスが追求する社員の「やる気」

(2010. 12. 22)

「社員が欲しいのは、やっぱりお金?」-ザッポスが追求する社員の「やる気」

11月の日本出張時に東京で開催した講演・セミナーのご報告。今日は、その第八回目です。

ダイナサーチ石塚しのぶの講演

『ザッポスの奇跡』の旧版を発刊してから、読者から寄せられたいろいろな質問の中から興味深いものをピックアップして、それらの質問に答えるという形でプレゼンを構成してみました。

今日の質問は、実は今年の10月にラスベガスのザッポス本社で開催した『ザッポス・エクスペリエンス・セミナー』の参加者の方から投げかけられた質問です。『ザッポス・エクスペリエンス・セミナー』では、ザッポスのマネジャーたちを囲んで、理念から実践まで、聞いてみたい質問を思い切りぶつけます。また、参加者同士がディスカッションを通して交流しあうというのも、このセミナーの大きな価値でもあります。私自身も、いつもとても楽しみにしているイベントです。

さて、その質問とは、
「ザッポスでは、あまり金銭的な褒賞を強調していないというけど、社員が欲しいのはやっぱり第一にお金ではないですか。やる気のもとは、やっぱりお金なのではないですか・・・」
というものでした。

社員に「やる気」を出させるには、どうしたらいいのか?これは、日本でもアメリカでも、ユニバーサルに探求されているテーマです。皆さんの中に読まれた方もあると思いますが、ダニエル・ピンクというアメリカの研究者が書いた『モチベーション3.0』という本は、日本でも話題になっています。

その中でも触れられていることですが、今まで信じられてきた「お金がやる気を生む」というインセンティブの考え方は、実は長期には働かないのだそうです。勿論、給料が重要でないと言っているのではありません。しかし、長期的に持続可能なモチベーションとは、人間が、自ら設定した目標達成を目指す、その内在的な意欲からもたらされるものです。言い換えれば、自己実現ということが言えるでしょうか。

ザッポス社内の風景

今まで信じられてきたモチベーションの考え方は、我々の生活がまだ貧しかったころのものです。確かに、多くの人が日々のご飯を食べるため、あるいは家賃を払うためだけに働いていた時代がありました。しかし、今日、日本やアメリカのように、先進国と呼ばれる国の中で、そういう人がどれだけいるでしょうか。

今の時代で、平均的な人たちを見ていると、20年前、30年前とはまったく異なる価値観のもとに働いていると思います。仕事の目標を、ただ「お金」だけに置いている人はそんなにいません。時代は変わったのに、経営の考え方だけが昔に留まってしまっています。

今、特に若い人たちが求めていることは、「個」の実現です。人生の目標を、仕事や家庭生活や、趣味を通じて達成することです。人間の欲求というのは、お金など我々の生活を維持するための基本的な要素に対する欲求、そして、人から認められたいという欲求、そして、自己実現の欲求というように高度化していきます。ご存知のように、人間は、基本的な欲求が満たされるごとにより高度な欲求を追及するものだ、というのがマズローの理論ですが、これを職場に置き換えて、働く人たちがより高度な欲求を追及するような環境をつくることが、「ピーク・パフォーマンス」を引き出すカギだ、と述べたのが、アメリカでベストセラーになった『ピーク』というビジネス書です(この『ピーク』は、ザッポスのパイプラインのクラスの教科書にもなっていますね)。

Ub|XZ~i[ザッポスが、社員に提供しようとしているのは、まさしく、人間の最も高度な欲求である「自己実現」を追及する環境です。会社の存在意義や価値観を明らかにした上で、それに賛同してくれる人を見つけて、雇う。会社の意義と、個人の働く意義がマッチしているからこそ、最大の力が発揮され、最大の成果が出るのです。ザッポスは、その「環境づくり」に人的、そして金銭的リソースを注いでいるように、私には思えます。

今後、経営者としては、会社の存在意義を明確に定義して、それを世の中に、そして働く人に知らしめることがとても重要になってくると思います。そして、個々の働く人にとっては、自分の人生の目標を見極めることが大事です。自分の目標と一致した会社を見つけることが、会社にとっても、自分にとっても幸せな結果を生むからです。

「個」に大きなパワーが与えられたソーシャルの時代には、そのパワーに甘んじるのではなく、我々一人ひとりが「個」の責任を自覚して、その責任をまっとうする行動、言動をしていくことが重要であると思います。

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