「純利益1%の会社なんて・・・」という人たちへの反論

(2010. 12. 20)

日本出張時に東京で行った<講演・セミナーのご報告第七弾。『ザッポスの奇跡』の発刊以来、読者から寄せられた質問やコメントに応える形で講演を構成してみました。今回のお題は、「純利益1%なんて、ビジネスとして成り立たないのでは・・・」というものです。

ザッポス・エクスペリエンス・セミナーでのダイナ・サーチ石塚の講演

アマゾンによるザッポスの買収時に、ザッポスの財務情報が開示され、その中で触れられていた純利益の数値が日本でもアメリカでもちらほら取り上げられました。

「純利益1%の会社なんて、『優良企業』とは呼べない・・・」と揶揄(やゆ)する人まで出てきました。これに関して、私の意見をちょっと述べさせてもらいたいと思います。

まず、ザッポスの経営哲学とは、「利益や効率より、顧客や社員満足を優先」するということなのです。そして、これは、ソーシャルの時代をとてもよく捉えたものです。

これまで、特に80年代や90年代といったような、経済成長時代の企業は、何よりも利益を追求する、利益を出すために効率を追及する、という考え方をしてきました。

だからこそ、効率を上げるためなら・・・と、顧客サービスの現場における自動化がどんどん進み、多くの場合、顧客満足や社員満足を犠牲にした効率化が進んできたわけです。

しかし、今後ソーシャル時代においては、顧客満足が何にも勝る企業の財産になります。そして、顧客満足を実現するためには、まず、社員の満足や幸せを実現することが必要になってきます。アンハッピーな社員がお客様を幸せな気持ちにはできないからです。

社員に「良かれ」を実践して、社員に愛される会社をつくれば、社員は会社のために、そして仲間のために、一生懸命に働くでしょう。そして、お客様にも心のこもったサービスを提供します。会社の優先順位として、「利益」や「効率」ではなく、「顧客の満足」ということが明らかに伝えられていれば、社員が目指すべきものはいたってシンプルです。幸せな社員は、その幸せのごく自然な表現として、「顧客に良かれ」を実践して、顧客に愛される会社をつくることができます。

社員に愛され、顧客に愛される会社をつくれば、自ずと(おのずと)人が寄ってきます。お客さんが集まり、また、良い人材が集まります。千客万来になるわけです。

千客万来になれば、それなりの収穫があり、会社という共同体を潤わせることができるようになります。それは、社員の会社に対する愛情や共同体としての結束の促進にもつながるのです。

Ub|XZ~i[例えば、ザッポスは、社員に「良かれ」という会社をつくることによって、「最も働きたい会社」の15位に輝くなどの偉業を成し遂げました。そういった社会からの承認は、社員のプライドや結束力を高めるだけではなく、より良い人材を呼び、顧客を呼んできます。誰でも、社員を大事にする「良い会社」とビジネスをしたいと思うからです。

幸せな社員は良いサービスを顧客に提供しますから、社員に愛される会社というのは、顧客に愛される会社にもなっていきます。ザッポスのケースで考えれば、75%のリピート率や新規顧客の43%が紹介による獲得であることがこれを物語っているでしょう。

利益優先の会社では、会社と社員、会社と顧客が敵対関係にあります。一方が得をすると、片方が損をするという関係にあるので、お互いに自分の利害を守ることばかりに力が入ります。どちらも得をするどころか、どちらも損をする関係になっているわけです。

しかし、顧客や社員満足を優先する会社には、「社員愛」→「顧客愛」→「千客万来」→「収穫」という価値の循環が作用します。言うまでもないことですが、これは長期的な考え方です。明日お金が儲かる、というような短期的見返りを追う考え方ではありません。人がたくさん集まるビジネスをつくれば、利益が上がり、そしてその利益は年々拡大していくでしょう。

ザッポスのオフィス風景

例えば、初期のアマゾンも、顧客満足を提供するシステムづくりに、長年多大な投資を行いました。それを見て、一部の投資家は、アマゾンはだめな会社だといい、利益が上がらないままで倒産するだろうと言う者もいました。「システムづくりにそんな投資をすべきではない。むしろ、来期に利益を上げることを優先すべきだ」と言う声もありました。ですが、アマゾンにとっては、そのシステムづくりが長期的な視野で見た投資だったのです。これは、ザッポスと同じく、アマゾンも、「長期的視野」に重きを置く会社であることの証です。

このようにして、アマゾンは、ほとんど黙っていても顧客が集まってくる「千客万来」のビジネスをつくりあげました。今のアマゾンを見て、初期の投資が間違っていたという人はほとんどいないでしょう。私は、ザッポスというのは、この千客万来のビジネスをようやく築き始めた、そのステージにあると思うのです。収穫はこれからです。

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