米『TIME』誌、「パーソン・オブ・ジ・イヤー」はマーク・ザッカーバーグ -ソーシャル時代、本格化の予兆①-

『TIME』誌が毎年恒例の「時の人(パーソン・オブ・ジ・イヤー)」を発表しました。なんと今年は、フェイスブックの創設者兼CEO、マーク・ザッカーバーグが26歳の若さでこの座に君臨。『我々の生活にとってもはや必要不可欠な存在となった、新しい情報交換の仕組みをつくった』ことに対しての栄誉であると、特集記事は述べています。
タイム誌の表紙を飾るフェイスブック創始者マーク・ザッカーバーグ米『TIME』誌の「時の人」といえば、アメリカのポップカルチャーの時流を示唆する象徴的なものです。近年で、テクノロジー業界の人がこの栄誉を勝ち得たのは今年で四回め。ちなみに直近から遡ると、2005年にはマイクロソフトのビル・ゲイツとメリンダ・ゲイツ夫妻、1999年にはアマゾンのジェフ・ベゾス、1997年にはインテルのアンディ・グローブとなっています。
2006年には「YOU(一般生活者の皆さん)」が「時の人」に選ばれました。著書『売れる仕組みに革命が起きる(2008)』の中にも書いたのですが、これは、まさしく、社会・市場の大きな変化を象徴する出来事でした。ユーチューブやブログなどのウェブ・ツールを通して、「情報摂取」のみならず「情報発信」を始めた生活者のパワーを、『TIME』誌という従来型メディアが公に認めたのです。
話は前後しますが、1999年にアマゾン創設者兼CEOのジェフ・ベゾスは「ショッピングのあり方を根本から変える潜在性を切り拓いた」ことに対してこの栄誉を与えられています。Eコマースの発展のひとつの肝は、商品や売り手、価格情報というかつては「閉ざされた情報」を民主化し、買い手が入手しやすいようにした、という点にあり、これは市場に大きなインパクトを与えるものでした。1999年、2006年、そして2010年の「時の人」すべてに、「情報」というキーワードが絡んでいることはとても興味深いと思います。
しかし、1999年の段階では、この対象が「ショッピング」ということに留まっていた。それが、今日では、情報の「民主化」が、「ショッピング」だけではなく、「エンターテイメント」や「コミュニケーション」など広範な領域にまで及び、生活者の「ソーシャル化」という社会現象に発展しているのです。これは、とても衝撃的なことです。

日本では新年早々に公開されるらしいですが、フェイスブックの誕生を物語った映画『ソーシャル・ネットワーク』がアメリカでは10月の初めに公開されて、フェイスブックという会社そのものだけではなく、創設者であるマーク・ザッカーバーグの私生活や人となりに対する関心が一気に高まりました。
最近、調査報道で有名なアメリカのニュース番組『60ミニッツ』でもフェイスブックが特集され、マーク・ザッカーバーグがインタビューされていたのですが、その中で、彼が口にした言葉にはっとさせられました。
「フェイスブックの目的は、インターネットをまるごと支配し、所有することですか?」
というインタビュワーの質問に直接的には答えず、彼が言ったのは次のようなことでした。
「写真でも、音楽でも・・・あらゆるものを、友人や家族など、自分にとって大切な人たちと『一緒に使う』ことができたら、誰でもそうしたいと思うのが当然だ」
日増しに「ソーシャル化」する生活者の欲求に応えるソーシャル・プラットフォームをフェイスブックは構築しているだけだ。その結果として、5億人の支持を得ているのだ・・・。
私には、彼がそう主張しているように聞こえました。
昨今問題視されている個人情報の蓄積や売買の問題はさておき、「フェイスブックは、ソーシャル化する生活者の欲求に応えているからこそ、生活者の支持を得て、より一層の繁栄を続けているのだ」というザッカーバーグの主張は、私には妥当なもののように思えます。裏返していえば、生活者の「ソーシャルな欲求」、市場のソーシャル化に応えられない企業は衰え、去り行くのみ・・・ということもできるでしょう。