ザッポスの経営革新は、革新的な事業再定義から始まった

(2010. 11. 29)

11月17日(水)に東京で行った講演・セミナーのご報告第二弾です。

この講演では、『ザッポスの奇跡』を発刊後、読者から寄せられた質問/疑問や巷で見聞きした声を集めて、「十の質問」に答弁するというコンセプトで構成しました。

石塚しのぶの講演の様子

そこで、「第一の質問」にあげたのは、一見取り上げるまでもないような、ごく基本的なことです。

それは、「ザッポスってネットで靴を売っている会社でしょ?」というものです。ごく基本的だけれども、本当は最も重要な意味をもった質問です。だから、私としては一番目にもってきたかったのです。

確かに、ザッポスのサイトに行くと、靴やらアパレルやらを売っていますよね。ですから、ザッポスを「ネットで靴を売る会社」と定義するのは自然の成り行きなのかもしれません。

でも、ザッポスの経営革新は、まず、事業の革新的な再定義から始まっているのです。『ザッポスの奇跡』から引用しましょう。

ザッポスは、たまたま靴を売っているにすぎない、サービス・カンパニーです。

これは、ザッポスの社員の人たちが自らを指して言う言葉です。「たまたま靴を売っているにすぎないサービス・カンパニー」。つまり、ただのモノ売りの会社ではなく、サービスの会社です。「我々の本当の売り物はサービスです」ということを強調しているわけですね。

このような「事業の革新的な定義」の例は他にもあります。例えば、ディズニーのビジネスは、「人をハッピーにすること」です。リッツ・カールトンの場合は、「おもてなし」です。ただ単にホテルを運営することではありません。

そして、経営革新に必要なのは、ただ単に事業を「再定義」するだけでなく、その事業定義を実践する仕組みやポリシーを構築することです。

例えば、ザッポスは、カスタマー・サービスの実践において、他の会社とは全く違うアプローチをとっています。

ザッポスが「事業の再定義」をしたのは2003年のこと。創生期のメンバーが、ある晩、お酒を飲みながら、「大きくなったら何になりたい?」という会話を交わしたのがきっかけでした。それまで、ただのネットの靴屋さんとして自らを定義していたザッポスでしたが、そうではなく、もっと大きな目標を目指そう、「最高のサービス」で知られる会社になろう、と決意したことから、ザッポスでは、いろいろなことが実践されてきたのです。

例えば、本社をサンフランシスコからラスベガスに移転したのも、事業の再定義ゆえの実践のひとつでした。サンフランシスコというのは、もともと、テクノロジーに強い土地柄ではありますが、カスタマー・サービスの人材を見つけるのに適したところではありません。24時間体制のコンタクトセンターをオープンするにあたって、カスタマ・サービスの人材を確保する必要がありましたが、サンフランシスコではそれがままならない状況でした。もちろん、コンタクトセンターだけをどこかへ移転することも考えられたのですが、ザッポスでは、「サービス・カンパニー」として会社の心臓部である「カスタマー・サービス」を本社から切り離すわけにはいかない、という決定を下したのです。

結果として、ザッポスが、ラスベガスへの本社移転を決行したのは2004年のことでした。当時90人くらいいた社員のうち、70から75人程度が会社と共に移転しました。また、同じ年に、ザッポスは、それまで売上の3分の1を、製造業者から顧客へ商品を送ってもらう「ドロップシップ」で処理していたのを、全在庫を所有し、ザッポスの物流センターから発送を行う「全在庫モデル」に切り替える決意をします。顧客が、発注後に一刻も早く商品を受け取れるよう、ケンタッキーにある物流センターはコンタクトセンターと同じく24時間体制で運営されています。

このように、明確かつ大胆な実践を伴う「事業の再定義」をやってのけたのが、ザッポスの経営革新の優れたところなのです。

事業定義に基づき、ザッポスの「カスタマー・サービス」に対する考え方も、他社とは相当違います。ふつうの会社では、「カスタマー・サービス」は部門です。それどころか、「顧客からの電話に出るところ」などという、まったく狭い定義をしているところもあるかもしれません。

しかし、ザッポスでは、「カスタマー・サービス」は部門名ではありません。むしろ、「会社の基盤」であると言っているんですね。ですから、カスタマー・サービスに関してひとつの部門が考えたり、行動したりするのではなくて、会社全体が考え、行動しているんです。

Ub|XZ~i[今の時期、アメリカでは、クリスマスに向けたホリデー・シーズンの只中です。通販の会社では、ホリデー・シーズンになるとコンタクトセンターのコール件数が段違いに跳ね上がります。この時期、普通のコンタクトセンターではどうするかというと、パートタイムの人材を大量に雇い入れます。働いてもらうのはたった2カ月かそこらの話ですが、大急ぎで研修をして、働かせて、シーズンが終わればそれきりです。

そこで、ザッポスではどうしているかということなんですが、ザッポスでは、パートタイムの人を雇いません(ちなみに、物流センターではパートタイマーも雇うそうですが・・・)。その代わりに、会社の他部門の人が援軍として電話の応対にあたるのです。本を読んだ人はご存知だと思いますが、ザッポスでは、役職や所属部門に関わらず、全社員が入社時に4週間の研修を受けます。そのうち2週間はコンタクトセンターでの研修です。そのため、ザッポスでは、どの部門に所属している人でも、全社員がコンタクトセンターで顧客対応をすることができるのです。ホリデー・シーズン間近になると、オフィスの壁に、スケジュール表が張り出されます。我々が今回、ザッポスの本社でセミナーを行った10月上旬にも、もう既にこのスケジュール表が張り出されていました。そこに、コンタクトセンター部門以外の人が、自分が手伝える時間帯に名前を記入していくのです。この時期には、CEOのトニー・シェイでさえも、時間のある時は電話に出ることもあるそうです。

繁忙期には、全社員が顧客対応にあたる、というこの姿勢は、ザッポスの「会社の基盤がカスタマー・サービスである」という信条を象徴するものだと思います。

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