先週の金曜日(10月8日)に、第2回ザッポス・エクスペリエンス・セミナーが終了しました。
アマゾンによる買収から一年を経て、快進撃を続けるザッポス。既に、2,000人近くの社員を抱える規模へと成長しつつあります。買収後も、そして急成長のスピードにも関わらず、相変わらず飽くなき革新に軽やかに取り組んでいるザッポスですが、その一方で、「急成長ゆえの苦悩」も垣間見えたことが印象に残りました。
今日から何回かに分けて私自身の気付き、そして、セミナー参加者の皆さんから聞かれた感想などを交えてブログで紹介していきたいと思いますが、第一回の今日は、日本では特に騒がれている『ザッポスとソーシャル・メディア』というトピックで書いてみたいと思います。
日本では、「ツイッター企業」のようにへんな注目のされ方をしているザッポスですが、実は、ザッポス自身は、「ソーシャル・メディア」という言葉を極力避けています。
ツイッターとかフェイスブックとか、はたまたブログとか・・・。巷では、こういったものが「ソーシャル・メディア」として騒がれているけれども、何も特別なものではない。お客さんとつながるためのひとつのツールであり、チャネルであって、「電話だってソーシャル・メディアじゃないか」というのが、CEOのトニー・シェイをはじめ、ザッポスがとっているスタンスなのです。また、ザッポスでは、もともとツイッターやフェイスブックを、「顧客向き(Customer-facing)」の活動として始めたわけではなくて、あくまで、社員同士がより強くつながるためのツールとして使い始めたのがきっかけです。その基本姿勢は未だに変わらず、たとえばツイッター活動のほとんどが、社員同士の会話やプライベートなつぶやきに費やされています。
ただ、社員も、顧客も、取引先も、すべてを「ザッポス・ファミリー」として考えているザッポスとしては、ザッポスのカルチャーを垣間見てもらえる最高のツールとして、たまたま、いわゆる「ソーシャル・メディア」が世の中に存在するというだけのこと。だから、利用できるものは利用してしまおう!というのが彼らの考え方なのです。
・・・と、前置きが多少長くなりましたが、今回、ザッポス・ブログチームの専属ライターとして新しく雇われたグラハムさんとお話をして、ザッポスの「会社としての」ソーシャル・メディア活動は、以前に比べてやや「組織化」されてきているなという印象を受けました。
グラハムさんはファッション誌やファッション・ブランドを中心にライターや編集者として活躍してきた経歴をもつ人ですが、このような人を、「専属ライター」として雇い始めたというのも、ザッポスとしては「新しい方向への第一歩」であると感じました。
『ザッポスの奇跡』執筆時には12本だったブログも、今では16本に増えました。特に、商品/ブランド中心のブログに関しては、以前にはマーチャンダイジング部門の人が書いていた、あるいは外部のコンテンツを借りてきていたと記憶しているのですが、今では、専属ライターであるグラハムさんをはじめ、大半が「ザッポス・ブログ・チーム」で賄えるようになっているようです。
組織的な話をすると、ブログ・チームがダイレクト/ブランド・マーケティング部門の傘の下に置かれるようになったことからも、ブログを初めとした「ソーシャル・メディア」活動が、ザッポスのブランド戦略のひとつの柱として位置付けられるようになってきたことが伺われました。
中でも、「ちょっとマーケティング色が強くなってきたのかな」と感じさせられたのは、ブログのコンテンツをMDが企画するプロモーションやキャンペーンにあわせて制作したり、ザッポスが取引しているメーカー・ブランドの依頼で制作したりなどといった活動に着手していること。「社内に広告代理店を抱えているようなものですね」とコメントすると、「各種ブランドから、ブログ制作にあたっての協賛マーケティング・フィーを払うという話も来ている。詳しいことは言えないが、今後は、年間数百万ドル単位の収入を目指している」という抱負も聞かれました。
しかし、どんなに「マーケティング色」が濃くなっても、ザッポス魂の根本は変わらず、「ソーシャル・メディアのROIを測定しているか」という質問に関しては、「一日にどのくらいの空気を吸うか、それを気に留めたり、ましてや測ったりする人はいない。それと同じで、『お客様とつながる』というザッポスにとっては呼吸と同様なナチュラルな行動に関して、測定を行ったりはしない。あえて言えば、他のブロガーから引用されたり、評価されたりすることが十分な成果指標だと感じている」という答えが返ってきました。同じく、「ザッポスにはソーシャル・メディア・ポリシーがない」ということは皆さん既にご存知だと思いますが、この姿勢もまったく変わっていません。ソーシャル・メディア活動についてザッポス社員に与えられるガイドラインはふたつだけ。「常識の範囲内で行動すること」、そして「自分らしく行動すること」です。
「ザッポスでは、『ザッポス社員』というつくりものをこしらえるために、人を雇うわけではない。むしろ、ひとりの人間として、同僚と向き合い、顧客と向き合える人を採用している。だからこそ、ザッポスのカルチャーに合う人を採用することが大事。それを基盤に、顧客と正直かつオープンにコミュニケーションしていくことが、ソーシャル・メディア活動においても最良の戦略だ」というグラハムさんの言葉が特に印象に残りました。これは、セミナーを通じて頻出した、共通のテーマでもあります。
この記事は@コールセンター.jpに転載されました。
[PR]米国企業の企業文化・取り組みの事例にご興味のある方は、こちらへ→『未来企業は共に夢を見る~コア・バリュー経営~』、『ザッポスの奇跡 改訂版』