ザッポスCEOトニー・シェイの説く「社員間のPEC(パーソナル、かつ感情的なつながり)」の重要性

(2010. 10. 5)

『ザッポスの奇跡』を読んだ人や、ザッポスを訪れた人たちの口から、たまに聞かれる言葉があります。

「・・・でも、ザッポスのやり方っていうのは、実にアメリカ的ですよね。日本には通用しないのでは・・・?」

これには、私は率直に言ってあまり共感しません。「やり方」というのは、「文化」という意味なのかな、とも思いますが、「アメリカと日本の違い」という問題ではなくて、むしろ、「企業間の違い」だと思っています。

ザッポスの文化自体を真似ることは不必要ですし、無意味です。企業には、それぞれの文化やコア・バリューがあって然るべきですから。自分たちの掲げたい価値観は何なのか、どういう文化をもった会社になりたいのか、をまず見極めることが先決でしょう。

これについては、トニー・シェイも次のように言っています。

「会社の価値観(コア・バリュー)が何であるかは問題ではない。どんな価値観(コア・バリュー)であっても構わないのだが、それに会社の全員が、真剣にコミットできるかどうかが重要だ」

経営陣だけ、あるいはある特定の部門だけ、というのではなく、社員全員が一丸となって真剣にコミットできるか否か、あるいは、コミットしていることを常に確認できる仕組みをつくることが肝心だと思います。

カリフォルニア州旗の傍らでスピーチするザッポスCEOトニー・シェイ

これからの時代は、どんな企業でも、市場(国)や業界、業種、あるいは形態を問わず、確固たる文化をもっていることが成長/繁栄の決め手になると私は思っているのですが、先々週にサンタモニカで行われたザッポスCEOトニー・シェイの講演の会場で、聴衆からこんな質問が出ました。

「バーチャル・オーガナイゼーションの場合、どうやって文化を育んだらよいか、なにかいいアイデアはありますか?」

『バーチャル・オーガナイゼーション』とは、普段、オフィスなど決まった場所に集まって仕事をするのではなくて、会社の構成員がそれぞればらばらな場所で、ネットなどでつながりながら仕事をしている組織形態のことを指します。今どき、IT業界などではさほど珍しくない形態かもしれませんね。

それに対するトニー・シェイの答えは次のようなものでした。

まず、普段はばらばらに仕事をしていても、定期的にみんながフェイス・トゥー・フェイスで集える機会をつくること。これについては、ザッポスのケースも例に挙げながら話していました。ザッポスの場合、本社はラスベガスですが、物流センターはケンタッキーにあるため、ラスベガスとケンタッキーに1,000人ずつくらい社員が分かれて仕事をしています。これら二つの土地で仕事をする人たちが、「お土地柄」的な違いはあるにせよ、共通の文化/価値観を共有しながら仕事ができるよう、ザッポスでも、ラスベガスの社員がケンタッキーに行って一週間を過ごす、あるいは、ケンタッキーの社員がラスベガスに来て一週間を過ごす、といったプログラムを設けています。

Ub|XZ~i[ザッポスでは、CLT (コンタクトセンター) の人たちがお客さんと向き合う時のゴールは、「PEC (Personal and Emotional Connection: パーソナル、かつ感情的なつながり) 」を築くことだと言っているのですが、これは、社員間の交流におけるゴールでもある、とトニーは言っています。だからこそ、ザッポスのマネジャーは、勤務時間の10%から20%にあたる時間を、部下や同僚とのチーム・ビルディング活動に費やすことが義務づけられているのです。・・・なんと非生産的な・・・と顔をしかめる人がいるかもしれませんが、そうではないのです。オフィスを離れて、友人のように付き合うことで、チーム内の信頼も高まるし、コミュニケーションも良くなるし、なにせ、「お互いのためにひと肌脱ぐ」というメンタリティが生まれる。・・・これは、ただの「同僚」の関係では生まれないだろう・・・と、トニーは言うのです。

「10%から20%の時間をチームビルディングに費やすリターンは大きい。我々の経験では、チーム内の結束の効果として、効率や生産性の面で20%から100%の向上が見られる」というのが、トニーの答えです。

私の会社でも、プロジェクト・チーム単位で仕事をすることが大半ですが、単なる「上司と部下の関係」や「お給料の代償」ということをベースに仕事をするよりは、「好きな人」や「志を同じくする人」と感情的につながりあって仕事をする方が良い結果が生まれるなあ・・・と納得。トニーの言葉に私もいちいち頷きながら聞いていました。

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