「オープンで透明性の高いザッポスでも、オープンにできないことはありますか?」

(2010. 9. 29)

サンタモニカで行われた公開講演の中で、ザッポスCEOのトニー・シェイは、「優れた企業の条件」として「企業文化とビジョン(存在意義)が明確に定義されていて、それらが全社員で共有されていること」を挙げました。

ザッポスCEOトニー・シェイのサンタモニカでのスピーチの様子

「企業文化」ということについては、その中でもトニーが特に強調していたことが三つあります。

ひとつは、「コア・バリュー(価値観)の共有」ということ。これは、私もよく自分の講演の中で主張していることなのですが、これからの企業は、「会社の価値観を明確に定めて、その価値観に賛同してくれる人に仲間(社員)になってもらわなくてはならない」と強く思います。そうでなくては、強い会社はできません。

そして、もうひとつは、「仕事とライフの融合(Work Life Integration)」ということ。ひとむかし前に、「ワーク・ライフ・バランス」なんていう言葉が流行ったのですが、これはナンセンスだとトニーは主張しているんですね。「仕事とライフのバランスをとらなくてはいけない」という考え方は、そもそも、「仕事とライフは別々のものである」という考え方からきているものだからです。だから、仕事とライフの利害が衝突する、自分のライフを犠牲にして仕事をする、などという考え方が生まれるわけです。

考えてみれば、これはとても不幸なことですね。というのは、たいていの人というのは、一日の大半の時間を仕事場で過ごしているからです。もし、「仕事をとるか、ライフをとるか」という選択肢しかないとしたら、世の中の大半の人は不幸な人生を送ることになります。

でも、「仕事(会社)の価値観と、ライフ(個)の価値観が一致していたとしたら、仕事とライフは切り離すことのできない、一体のものになるはずだ」というのが、トニーの主張です。だからこそ、ザッポスでは、会社の外で同僚と友達付き合いすることの重要性を唱えるわけです。「会社でも、自分というものをまるごと発揮してください。自分の一部を家に置いてこないでください」とトニーは訴えます。

最後のひとつは、「オープンさと透明性を徹底する」ことです。「個」が自由に自己表現でき、しかも情報が数多くの人にものすごい速さで伝播されるWeb時代には、企業が「ブランド・イメージ」や「ブランド・メッセージ」をこさえて、いかに自分たちを良く見せようとか、見られたくないところを包み隠そうとしても無意味です。だから日頃から、オープンさと透明性を徹底する組織でなくてはなりません。そうするためには、「企業文化が大事だ」ということになるわけです。

ところで、「オープンさと透明性」ということに関しては、オーディエンスから、「ザッポスでもオープンにできない(あるいはできなかった)ことがあるか」という質問が出ました。これについて、トニーは「できることならあらゆるすべてのことをオープンにしたいんだけどね・・・」と前置きしつつ、「個々の社員の給与や人事評価」と答えていました。

Ub|XZ~i[オープンにできない(あるいはしないほうがいいと思う)理由は、「コンテクスト(背景)の理解が必要な情報で、皆がみなコンテクストを理解できるとは限らないから」というものでした。

私も社員に同じような話をしたことがあるのですが、例えば給与というのは、役職や職種や個々人の会社に対する貢献度など、複雑な諸事情と結びついているものです。だから仮に、同じ会社で同じ時期に入社したふたりの人がいたとしても、その人たちの給与を並列に並べて、比べることはできない。また、商用目的の旅行など、業務と結びついた特権も同じことで、例えばバイヤーなどはビジネストリップで海外に出かけたりすることもあるけれども、他部門の人がそれを指して不公平だといえるかというと、それは理にかなわないことです。でも、皆がみなそういった理屈を理解できる器をもっているわけではないので、こういった情報をいたずらにオープンにすると、問題が起こるだろう・・・と、そういった回答でした。

この例でもそうなのですが、私がザッポスについて深く知るたびに思うのは、ザッポスという会社は、理想論を語るだけではなくて、あくまで冷静な眼差しで現実を見つめた上で、問題点に対して次々に解決策を編み出していくという姿勢のもとに組み立てられている会社だということです。それが、ザッポスの成功の秘訣だと思います。

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