ザッポスCEO、トニー・シェイの本『Delivering Happiness(邦題:ザッポス伝説)』を読んで・・・

(2010. 6. 7)

ザッポスのCEO、トニー・シェイの本『Delivering Happiness: A Path to Profits, Passion, and Purpose(邦題:ザッポス伝説)』が今日(6月7日)、発売になりました。

本の内容は、これまでブログで折りにふれご紹介してきたとおり、大きく3つに分かれています。まず、第一部は「Profits」。これは、「連続起業魔」であったトニーの少年時代に始まり、リンクエクスチェンジを経て、トニーがザッポスの経営に本格的に参画するまでのいきさつを語ったものです。第二部の「Passion」では、『ザッポスの奇跡』でも触れているコア・バリューの定義を含め、ザッポスのこれまでの歩みについて述べています。そして第三部の「Purpose」では、ハピネスのメカニズムが、トニーの視点から語られています。

この本の特徴的なところは、普通のビジネス書というよりは、半分がトニーの自伝、そして半分がザッポスの歴史であるということです。ですから、「ザッポスという会社において、実際に何がどのように取り組まれているのか」ということについて知りたい人には、多少物足りないところがあるかもしれません。(事実、アメリカのビジネス誌の中にはそういった内容の書評も見られました。)

しかし、トニー・シェイの人間像や哲学を理解する、という点ではとてもよい本ですし、なにしろとても面白く読めます。ネタバレになるといけないので、詳細は割愛しますが、トニーというのはなかなかいたずら好きな人間で、箇所によってはちょっと笑っちゃうところもあります。青春小説みたいなところもあるかもしれません。

Ub|XZ~i[いずれにせよ、とくに若い起業家の皆さんにとっては、とても元気の出る本ではないかと思います。是非読んで欲しい本です。

しかし、ちょっとびっくりしたのは、アマゾンへの売却を決意した顛末(理由)が、結構赤裸々に語られていたこと。つまり、主要な投資家であったセコイア・キャピタルが、これ以上ザッポスに投資し続けるのを拒んで、IPO(株式公開)に向けて圧力をかけ始めた、という背景があったらしいです。少し抜粋すると、「彼らは、企業文化に関するザッポスの取り組みを、僕のごく個人的なプロジェクトであるとしか考えておらず、『トニーの社会的実験』などと呼んでいた。社員の幸せについて考える暇があったら、どうしたらもっとたくさんの靴が売れるか心配すべきだ、というのが彼らの意見だった」という記述があるのですが、そういった投資家の姿勢に嫌気がさして、マネジメント・バイアウトを検討していた矢先に、アマゾンからのオファーが持ち上がったとか・・・。

また、元を正せば、アマゾンから、「ザッポスを買いたい」という話が最初に持ち上がったのは、なんと2005年の頃だったらしいですね。当時ザッポスはまだ年商3.7億ドル規模。「アマゾンとザッポスでは方向性が違いすぎる」と、トニーをはじめザッポスの経営陣は間髪いれず、「NO」と返事をしたらしいです。

個人的に、私がなぜこの赤裸々な記述にびっくりしたかというと、セコイア・キャピタルが関連することについては、ザッポスはかなりセンシティブであったからです。実は、『ザッポスの奇跡』英語版出版の際にも、微妙なニュアンスではありますが、セコイア・キャピタルがらみの記述をザッポス側の要請で多少修正した箇所がありました。

本の内容からは少し離れますが、アメリカのビジネス書マーケティングのトレンドとして、出版前の「アドバンス・コピー」を一般ブロガーに無料配布する、ということが流行っているようです。無論、「ブログに書評を書く」のが条件ですが。私も最近、トニーの本だけではなく、元フォレスター・リサーチのコンサルタントであるシャーリン・リーの『オープン・リーダーシップ』の本を出版前に貰いました。

このマーケティングが効を奏してか、発売開始当日だというのに、Amazon.comの、トニーの本の紹介ページを見ると、もう既に65件の顧客レビューがついています。また、グーグルで検索すると、刻一刻と書評ブログが増えていくのが目につきます。

さすがトニー。ウェブ時代の「ソーシャル・パワー」を駆使したマーケティングに長けているなあ、とあらためて関心したのでした。

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