ザッポスCEOトニー・シェイに訊く「ツイッターで、ネガティブなことをつぶやく社員・・・、そのリスクを考えたことがありますか?」

(2010. 5. 26)

ザッポスCEOトニー・シェイによる著書『Delivering Happiness(邦題:ザッポス伝説)』の出版にちなんで、ラスベガスにあるザッポス本社を訪問し、ザッポスCEOトニー・シェイにインタビューをしてきました。本の事から始まり、企業文化について、リーダーシップについて、「幸せ」に関するトニー自身の哲学について、そして彼のプライベート・ライフについてなど話は弾み、1時間が瞬く間に過ぎてしまいました。このインタビューの模様について、何回かに分けて書いて行きたいと思いますが、今回はその第八回目です。 

石塚:
つい最近のことですが、日本のテレビ局(テレビ東京)がザッポスを取材して、その番組が日本で放映されました。企業のツイッター利用に関する15分くらいの番組で、全体の半分くらいがザッポスに充てられていたと思います。こういった番組の影響もあって、トニーにとっては不本意でしょうが、日本では、ザッポスは「ツイッター企業」として知られています。ですので、ザッポスにおけるソーシャル・メディア活動についてちょっと質問したいと思います。

石塚しのぶによるザッポスCEOトニー・シェイへのインタビュー

まず、最初の質問ですが、今、トニー個人のツイッターには160万人超のフォロワーがいますね。また、ザッポス社内だけでも500人の社員がツイッターをやっています。私は、ツイッターは非常に「パーソナルな」メディアであり、それがツイッターの素晴らしいところだと思っているのですが、こんなにたくさんのフォロワーに対して、どうやって「耳を傾け」たり、「会話」したりしているのですか。

トニー:
まず、「ザッポス」というキーワードでツイッター内検索をかけて、そこであがってきたツイートを片っ端から読んでいきます。一日に200件くらいだと思いますけど。読むだけなので、そんなに時間のかかることではないですよ。

石塚:
でも、すべて自分で対応しているわけではないですよね。

トニー:
自分で返答はしません。返答は、CLT内のツイッター・チーム(@Zappos_Service)に任せています。

石塚:
日本でもアメリカでも、ザッポスのソーシャル・メディア活動は非常にユニークだとして注目を浴びています。トニー自身は、ソーシャル・メディアを、ザッポスの成功を支える戦略のひとつの柱として意識していますか。

トニー:
そういう認識はしていません。実を言うと、僕は、「ソーシャル・メディア」という言葉自体、あまり好きではないんですよ。媒体如何ではなく、焦点は、「より強固な関係を築き、育む」というところにあると思います。そういった目的にのっとって考えると、電話も、ツイッターも、フェイスブックも、同様に効果的な媒体です。焦点が、「ソーシャル・メディア」という媒体におかれるべきではなく、むしろ、「人とより強固に、密接につながる」という目的自体におかれるべきだと思っています。ですが、世の中の多くの企業は、ソーシャル・メディアを、「マーケティング媒体」として捉えている・・・。それは、僕たちがザッポスでとっているのとはまるで違う姿勢です。僕たちのブログを見ていただければわかると思うのですが、メインの目的はザッポスのカルチャーを社外の人たちに知ってもらって、もっとザッポスを身近に感じてもらうことにあります。ブログも、ツイッターも、フェイスブックも、僕たちは顧客に何かを売るためにやっているんではありません。

石塚:
つまり、電話も、ブログも、ツイッターも、フェイスブックも、「コミュニケーション戦略」あるいは「リレーションシップ構築戦略」の一環であって、ソーシャル・メディアだけを区別してみているわけではないということですね。

トニー:
そうですね。でも、言ってしまえば、ザッポスではそれを「戦略」とは呼びたくないんですよ。「戦略」ではなく、「より強固につながるために、とにかく、何でも、できる限りのことをやる」ということだと、僕たちは考えているんです。

石塚:
現在、ザッポスには12本の企業ブログがあり、また、特定の部門、部署や、あるいは商品カテゴリーに関連したいくつものツイッター・アカウントが存在しますが、これらの活動を統括している部門みたいなものが、ザッポスにはあるのですか。それとも、各部門や部署、あるいはカテゴリー・チームが単独で活動しているのでしょうか。

トニー:
たいていのものは部門や部署やチーム単位で運営されています。社内の部門として、「ブログ・チーム」というのがあるのですが、彼らの主な仕事は、「インサイド・ザッポス」というザッポスのカルチャーや社内での出来事にフォーカスしたブログを管理することと、ビデオの制作、あと、ザッポスのフェイスブック・アカウントの管理です。その他のことは、中央集権的にではなく、様々な部門や部署単位で独立して行われています。

石塚:
では、たとえば、ライドショップ(スケートボードやサーフィンなどのライフスタイル・カテゴリー商品を扱うチーム)のツイッター・アカウントは、MD部門の中のライドショップ・カテゴリー・チームが単独で運営しているということですね。

トニー:
そうだと思いますよ。実を言うと、ライドショップのツイッター・アカウントがあるなんて、僕も言われるまで知りませんでした(笑)。でも、ツイッター・アカウントの多くは、社員個人が、ごくパーソナルなことについてつぶやいているものです。

石塚:
ではひとつ、読者からの質問です。「ザッポスでは、顧客とのより強固な関係を築くためにツイッターが使われているようですが、もし、ツイッターがなかったとしたら、他にどんな方法やツールを使っていたと思いますか?」という質問です。どうでしょうか。

トニー:
もともと、ザッポスでは、ツイッターを、「顧客との関係を築くためのツール」として使い始めたわけではないんですね。むしろ、社員間のコミュニケーションをより活発にして、ザッポスのカルチャーをより強固なものにするツール、としてツイッターを使い始めたんです。

だから、たまたま、「ツイッター」ということが注目を浴びてしまっていますが、「社員間、あるいは顧客との関係を強固なものにする」ということに関しては、ツイッターがなければ、他のあらゆる方法でそれを成し遂げたと思います。

石塚:
なるほど。顧客との関係でいえば、ツイッターがなくても電話がある、ということですね。

次も、読者からの質問ですが、ザッポスでは、ツイッターをやっている社員を一覧表にしたりして、社員によるツイッター活動をかなり公にしていますね。例えば、ある社員が辞めさせられたとして、その人がザッポスに関してネガティブなことをツイートしたりであるとか・・・、そういったリスクについて考えたことがありますか。

トニー:
例えば、ツイッターをやっている500人の社員の中のひとりが会社についてネガティブなことを言っていたとして、でも、残りの499人がポジティブなことを言っていて、ハッピーであったとしたら、あなただったらどう考えるでしょうか。おかしいのは会社だと思いますか。それとも個人でしょうか。

石塚:
つぶやきの一つひとつがポジティブであっても、ネガティブであっても、それをどう解釈するかは読者のインテリジェントな状況判断に任せるということですね。

Ub|XZ~i[ザッポスのソーシャル・メディア活動に関して、私がとても興味深いと思ったことに、例えば「ゲット・サティスファクション」(一般ユーザーと企業が、顧客の目から見たあらゆる問題点や提案について語り合うSNS/クラウド・ソーシング・サイト)というサイトで行われているザッポスの活動があります。

「ゲット・サティスファクション」に参加している多くの企業は、カスタマー・サービスやマーケティング部門から、いわば「オフィシャル」な会社の代表を任命して参加させ、顧客の提案や疑問、苦情に答えているようですが、ザッポスでは、実に多くの社員がこのサイトで活躍していますね。これも、別に特定の部門の社員だけが参加しているわけではないように見えますが、こういった活動は、一体、どのように運営されているのですか。

トニー:
特定の部門の社員だけが参加しているのではなくて、有志の社員が自由に参加しています。具体的なところは僕にもわからないですが・・・。ただ、「ゲット・サティスファクション」だけでなく、ツイッター活動についても同じようなことが言えます。ツイッターでも、ひとりの顧客がつぶやいた質問や苦情に関して、複数の社員が回答するかもしれません。そしてそれは、CLTが管理しているオフィシャルなアカウントだけではなく、様々な部門に属する、様々な社員も含まれているでしょう。これらの社員は、「お客様の力になりたい。お客様を喜ばせたい」という自由意思から、こういった活動をしているのです。これは、顧客にとっても気持ちの良いことだと思います。

石塚:
それはとてもユニークなことだと思いますね。一般の会社では、多くの場合、「仕事」や「役職」という前提で、社員がソーシャル・メディアに参加し、カスタマー・サービス的な活動に従事しています。でも、ザッポスでは、そういった職業的義務感からではなくて、個々の社員が、「お客様をヘルプしたい」という情熱に突き動かされて、そういった活動に参加している、そして、会社もそういった自由を許している、それが、非常にユニークだと思います。

ザッポスCEOトニー・シェイのDelivering Happiness(邦題:ザッポス伝説)

最後の質問ですが、今、日本でもツイッターがモメンタムを得てきていて、多くの企業が、ツイッターのビジネス利用を模索しています。そういった企業に対して、「ツイッターでやるべきこと(Do’s)」、あるいは「やるべきでないこと(Don’t’s)」に関するアドバイスはありますか。

トニー:
「ビジネス利用」ということを忘れて、とにかく使ってみること。個人的に使ってみて、まず、自分がツイッターを好きになることが大切だと思います。ツイッターという媒体には、独自のカルチャーがありますから、それを肌で感じて、何が適切で、また何が適切でないかを自分で判断する感覚を磨いていくことが必要だと思います。「ツイッターのビジネス利用」について考えるのはそれからですね。

自分がツイッターを好きでもなくて、使ってもいないのに、ビジネス上で効果的な「ツイッター戦略」を考えつこうと思っても無理です。まず、自分で「ツイッターのある生活」を体験してみることが大事だと僕は思っています。

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