ザッポスCEOトニー・シェイに訊く「会社で、意見の衝突が起こったとき、どうしますか?」

(2010. 4. 19)

ザッポスCEOトニー・シェイによる著書『Delivering Happiness(邦題:ザッポス伝説)』の出版にちなんで、ラスベガスにあるザッポス本社を訪問し、ザッポスCEOトニー・シェイにインタビューをしてきました。本の事から始まり、企業文化について、リーダーシップについて、「幸せ」に関するトニー自身の哲学について、そして彼のプライベート・ライフについてなど話は弾み、1時間が瞬く間に過ぎてしまいました。このインタビューの模様について、何回かに分けて書いて行きたいと思います。今回はその第五回目ですが、 「冷静かつ温和」で知られるトニーに、「会社で怒ったことはありますか?」という質問に始まり、「会社で意見の衝突があった時の対処法」や、幸せのナンバー・ワン・ファクターについて訊いてみました。括弧内は、インタビューの最中やインタビュー後に思いついた私のコメントです。

ザッポスCEOトニー・シェイとのインタビュー

石塚:
私が日本の読者からよく訊かれる質問のひとつに、「トニー・シェイはどんな人ですか」というものがあります。それに対して私は、いつも、「非常に冷静、かつ穏やかな人です」と答えるようにしているのですが、そこで、読者からひとつ突っ込んだ質問がありました。「会社で、怒ったことはありますか?」という質問です。そして、「もし、最近、会社で声を荒げて怒ったようなことがあれば、その原因になったことなど聞かせてください」というものです。どうでしょうか。

トニー・シェイ:
僕は、子供の頃、高校生くらいの頃までは実はよく怒っていました。親に腹を立てて、まるまる一週間口をきかない、なんていうこともありました。いわば「根にもつタイプ」だったわけです。でも、大学生の頃か、大学を卒業したくらいの頃に、それまでの人生の中で、人に腹を立てた時のことを思い返して、そのうちたったの一度でも、「腹を立てて得をした」ことがあっただろうか、ということについて真剣に考える機会がありました。すると、「腹を立てて得をした」と思えることがひとつもなかったんです。

その時、僕が気付いたことがいくつかあります。ひとつは、「怒りには拍車がかかりやすい」ということ。怒っている時って、知らず知らずのうちに、自分で怒りを増幅させてしまうようなところがありますよね。そして、もうひとつは、「怒りが状況の改善につながることはない」ということ。むしろ、怒りは、状況を悪化させる傾向にある・・・。一度怒り始めると、そのままずっと怒りがおさまらなくて、一日じゅう、あるいは一晩中嫌な気持ちで過ごさなければならない、ということもありますし。

怒りという感情は、結局は自分でコントロールできるものだと思うんです。例えば、高速で隣の車線を走っていた車がいきなり前に割り込んできたとして、かつての僕だったら腹を立てていたと思います。でも、僕は、自分が怒りそうになった時、こう自問自答するようにしています。『今起こっていることって、一年後に影響するような大きな問題なんだろうか』と。すると、たいていのことはそうじゃありません。さっきの車の例にしても、一年後にはもう覚えてもいないような、些細なことです。なのに、一時の感情に左右されて、自分で自分に怒ることを許してしまったら・・・、それで一日中、一晩中を嫌な気持ちでムダに過ごすことになる。得することなんて何もないわけです。だから、怒りという感情がわきあがってきたときに、一歩引いて考える。怒りに任せることが理にかなっているのかどうかを今いちど考えてみる、それが、僕にとって、怒りをやり過ごすためのコツです。

石塚:
会社に、意見の衝突はつきものですよね。でも、そういった揉め事があった時にも、あなたは怒らないということですか。

トニー・シェイ:
ザッポスのコア・バリューは、「チーム・家族精神を育てる」こと。ザッポスの社員は皆、正しい意図をもって、同じ目標に向かって進んでいて、それをお互いに理解しているんです。だから、収拾がつかないような、大きな意見の衝突があるということはないと思いますね。

ザッポスのコールセンターの風景

石塚:
つまりザッポスでは、あなただけではなくて、みんなが冷静に話をすることができる、口論になるようなことはあまりない、とそういうことですか。

トニー・シェイ:
意見の衝突が起こるとき、その根本は「コミュニケーション上の問題」か、「価値観のすれ違い」だと思うんですね。ザッポスでは、「価値観の共有」をベースに人を雇っていますから、採用の段階で、もう既に「価値観のすれ違い」という問題をある程度解消している、といえると思います。

Ub|XZ~i[「価値観のすれ違い」に基づく意見の衝突は、最も乗り越えがたいものです。自分と価値観の異なる人を説得するのは不可能に近いですから。一方、意見の衝突が、誤解や、異なる視点、つまり、「コミュニケーション上の問題」に基づくことであれば、両者がじっくりと落ち着いて話し合うことによって、理解や合意に辿りつくことができると思います。(注:価値観のすれ違いが原因で起こる問題は、会社の結束を乱すような大きな問題に発展しかねない。しかし、それ以外の問題なら、たいていのことは話し合いで解決することができる、とそういうことですね。だからこそ、共通の価値観をベースとする企業文化の育成やコア・バリューの定義が大事なんだということを、トニーは訴えたいんだと思います。)

石塚:
あとふたつ、読者から、「幸せ」に関する質問なんですが、ずばり、あなたにとって、「幸せ」のナンバー・ワン・ファクターとは何ですか。また、ザッポスのお客様にとって、「幸せ」のナンバー・ワン・ファクターとは何だと思いますか。

トニー・シェイ:
僕についていえば、「自分の運命が自分の掌の中にある」という確信に幸せを感じます。そして、顧客にとってのハピネスは・・・、それは人それぞれでしょうね。送料無料、返品も無料でできる、という「便宜」に幸せを感じる人もいれば、ザッポスという会社が本当に「ありのまま」で、「嘘偽りない」ことに幸せを感じる人もいる。ザッポスという会社と、単なる売り手と買い手の関係ではなくて、「パーソナル、かつエモーショナルなお付き合い」ができることに、幸せを感じる人も多いと思います。

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