ザッポスCEOトニー・シェイに訊く「お金があるから、情熱を追えるんじゃないの?」

(2010. 4. 12)

ザッポスCEOトニー・シェイによる著書『Delivering Happiness(邦題:ザッポス伝説)』の出版にちなんで、ラスベガスにあるザッポス本社を訪問し、ザッポスCEOトニー・シェイにインタビューをしてきました。本の事から始まり、企業文化について、リーダーシップについて、「幸せ」に関するトニー自身の哲学について、そして彼のプライベート・ライフについてなど話は弾み、1時間が瞬く間に過ぎてしまいました。このインタビューの模様について、何回かに分けて書いて行きたいと思います。今回はその第三回目ですが、 「会社経営における利益、情熱、意義の関係性」について、そして、「ザッポス初期の失敗」について、トニーに語ってもらいます。括弧内には、インタビューの最中やインタビュー後に思いついた私のコメントを書いてみました。

石塚:
『Delivering Happiness(邦題:ザッポス伝説)』のプロモ用ビデオの中に、「利益(お金)があれば幸せになれるというものではない」という言葉が出てきます。確かにそうだと思う反面、ビジネスというのは、「利益」がなくては存続していくことができませんよね。また、「利益(お金)があるからこそ、情熱を追うことができる」とも言えると思います。例えば、あなたのケースだと、ザッポスの前にリンクエクスチェンジという会社を立てて、そこから十分なお金を得たからこそ、ザッポスという会社で、自分の理想を実現することができているのじゃないか、と言う人もいると思うのですが、そういった質問に対してはどう答えますか。

トニー・シェイ:
『Delivering Happiness(邦題:ザッポス伝説)』の副題は、『A Path to Profits, Passion, and Purpose(利益、情熱、そして意義への道のり)』です。つまり、僕が主張したいのは、最高のビジネスとは、この三つの要素をすべて揃えたビジネスだということです。情熱を追うだけでもだめだし、意義を追うだけでもだめで、利益を確保する方法を考えなくてはなりません。生きていくためには、利益も必要ですから。

利益を空気に例えたらわかりやすいかもしれません。もし空気がなかったら、当然、死んでしまいますよね。でも、息をするのに十分な空気があれば、それ以上の空気はいりません。余分に空気があったところで、幸せになれるわけでもなければ、長生きできるわけでもない。そうでしょう。ビジネスにとっても同じことで、息をする、つまり、会社が存続したり、働いている人が生きていくのに必要なだけの利益を確保できた、というステージにおいては、情熱や意義が、利益よりもっと重要になる、と、そういうことなんです。

ザッポス社内の風景

石塚:
『ザッポスの奇跡』では、主に、ザッポスの成功譚を書いているのですが、日本の読者の中には、「ザッポスを今の形につくりあげるまでに経験した躓きや失敗について知りたい」という声が多くあります。ザッポスの今までの歩みの中で、「こんな失敗があった」ということがあれば、聞かせてもらいたいと思うのですが・・・。

トニー・シェイ:
一番大きな失敗は、採用に関連するものだと思います。急速に成長している会社によくあることだと思いますが、「労働力を確保する」ということだけに気をとられて、会社の文化に合わない人を雇ってしまうことです。採用については、ザッポスも多くの間違いを経験してきました。様々な試行錯誤を経て、今では、より成功率の高い採用ができるようになったと思っています。まだまだ完璧とは言えないですけれども。

初期のザッポスがよく犯した間違いで、急速に成長している会社にありがちなのは、「大急ぎで採用して、ぐずぐず解雇する」ことです。本当はまったく逆のアプローチがとられるべきですよね。つまり、「じっくり時間をかけて採用して、会社に合わない人は即解雇する」。ザッポスのケースでいえば、「会社の文化に合っているかどうか」を時間をかけて十分よく吟味してから適した人材を雇う、そして、雇い入れた後に、文化に合わないことが判明した人がいたら、ぐずぐずせずにすぐ解雇する、ということになります。

(注:「即解雇」という言葉は、「終身雇用制」という文化を背負った日本の読者の方々には多少冷酷に響くかもしれません。しかし、誤解を避けるために付記しておくと、ザッポスというのは、原則としては、「社員が一生涯働きたいと思える会社」づくりを目指している会社なのです。その目標の実現のために、エントリー・レベルの人材を5年から7年のスパンでリーダー格にまで育て上げるという構想を基盤とした、「パイプライン」と呼ばれるリーダー養成プログラムが設けられているくらいです。ここで、トニーが言わんとしているのは、あくまで、「会社の文化に合わない人材は即解雇」ということなのです。その根底には、「会社の文化に合わない人に、毎日いやな想いをしながら働いてもらうのは、会社のためにも、その人自身のためにもならない」という理論があります。これも、ザッポスという会社の人財経営の考え方が、「会社の価値観と、『個』としての社員の価値観が合致してはじめて、企業力を最大化し、発揮することができる」という基本原則に基づいているためです。旧来型の「終身雇用制」が崩れ去ろうとしている日本社会においても、その本来の意義を問い直す時期が来ているかもしれません・・・。)

石塚:
「幸せ」の科学的メカニズムについては、あなた自身が推薦している本も含めて、いろいろな本が出回っていますが、それらの本と、『Delivering Happiness(邦題:ザッポス伝説)』が一線を画すのはどんな点でしょう。

トニー・シェイ:
Ub|XZ~i[僕の本の半分くらいは、ごく個人的な逸話ですから、他のどの本ともだいぶ違うと思いますよ。僕とまったく同じ人生経験をした人が本を書いていない限りは・・・(笑)。ただ、『Delivering Happiness(邦題:ザッポス伝説)』の真ん中のセクションは、ザッポス社内での推薦図書をはじめとして、世の中に出回っているいろいろな本の中の知識や英知を集めて、ザッポスの社内で僕たちがそれらをどのように応用しているか、について書いたものになっています。

石塚:
あなたは、たいへんな読書家ですよね。非常に忙しいスケジュールをこなす中で、どうやってあんなにたくさんの本を読んでいるのですか。また、本を読むことは、企業リーダーやマネジメントにとって重要なことだと思いますか。

トニー・シェイ:
リーダーやマネジャーだけではなくて、誰にとっても大切なことだと思いますし、ザッポスでは、会社の中のみんなに対して本を読むことを奨励しています。僕個人についていうと、旅行していることが多いので、いつも本を持って行くようにしていて、飛行機の中で本を読んだりしています。

(注:『ザッポスの奇跡』の中でも触れていますが、ザッポス本社の玄関ロビーには、「ザッポス・ライブラリー」と呼ばれる本棚があって、トニーをはじめ経営陣が推薦する本がずらりと並んでいます。普通のライブラリーだと、借りた本は返さなくてはいけませんが、「ザッポス・ライブラリー」の本は貸し出しているのではなく、社員が興味ある本を持ち帰って、自分のものにして読むことができます。これも、ザッポスのコア・バリューのひとつである、『学びと成長を追及せよ』の具現化された形なのです。また、ザッポスのリーダー養成プログラムや、コンタクトセンターのスキル・セットの認定プログラムなどでは、指定図書を読んで、読後感想レポートを提出するということが、カリキュラムの中に組み込まれているそうです。日本でもアメリカでも、「認定プログラム」というと、どうしてもスキル・ベースの試験を受けて云々・・・、ということを想像しがちですが、読書感想文が認定プログラムの中に組み込まれているところに、ザッポスの特殊性を感じます。)

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