ザッポスCEOトニー・シェイ『Delivering Happiness(邦題:ザッポス伝説)』出版記念インタビュー: 「Delivering Happiness」で伝えたかったメッセージは?

(2010. 4. 7)

今年6月7日に出版予定の本、『Delivering Happiness(邦題:ザッポス伝説)』について、ザッポスのCEO、トニー・シェイにインタビューしてきました。題名の『Delivering Happiness』とは、『幸せを届ける会社』とかそういった意味合いだと思いますが、副題には、『A Path to Profits, Passion, and Purpose(利益、情熱、そして意義への道のり)』とあります(私の勝手な翻訳ですが・・・)。本のことから始まり、企業文化について、リーダーシップについて、「幸せ」に関するトニー自身の哲学について、そして彼のプライベート・ライフについてなど話は弾み、1時間が瞬く間に過ぎてしまいました。このインタビューの模様について、何回かに分けて書いていきたいと思いますが、今日はその第一回目です。(注:時々、括弧内に出てくるのは私がインタビュー後に書いたコメントです。)

石塚しのぶによるザッポスCEOトニー・シェイへのインタビュー

石塚:
まず、6月7日に出版される本、『Delivering Happiness(邦題:ザッポス伝説)』についてですが、この本を通して伝えたかったメイン・メッセージは・・・。

トニー・シェイ:
企業の目標として、社員や顧客のハピネスの追及か、あるいは、利益の追求か、そのうちのいずれかひとつを選ばなくてはいけない、というのがかつての考え方だったと思います。このふたつが、まったく相反するものとして考えられていたわけです。しかし、今の時代には、これらは必ずしも相互排他的なものではない、「社員や顧客のハピネスと、利益と、ふたつを両立できる時代が来たんだ」というのが、僕がこの本を通して主張したいことです。

本は大きく三つに分かれていて、まず第一のセクションは、僕の起業家としての歩みを自伝的に書いています。子供の時に道端でレモネードを売ったり、ガレージ・セールをやったりした経験から始まって、大学時代にやっていたピザ・ビジネス、卒業後に立ち上げたリンク・エクスチェンジ、そしてザッポス・・・。そういった一連の起業経験から僕が学んだことについて書いています。(ちなみに、トニーのお父さんは特許をいくつも持っている化学技術師、お母さんは臨床心理士だとか。ご両親は、トニーに起業家ではなく、医者とか学者になって欲しかったらしいです。)

そして、第二のセクションは、僕らがザッポスでやってきたことについての話です。ザッポスのカルチャーやコア・バリュー、顧客サービスに関する僕らの哲学はもちろんのこと、創業から今まで、社内で交わされてきたメールやその他の文書なども交えながら、いろいろな紆余曲折を経て僕らが学んできた教訓について書いています。

最後に、第三のセクションでは、「幸せ」の科学的なメカニズムについてです。僕個人が取り組んできた研究をもとに、その考え方を、どうやってビジネスや、また、パーソナル・ライフに応用することができるか、ということについて書いています。

石塚:
今、「社員や顧客のハピネスと利益の両立」という話をしてくれたんですが、それが、かつては実現できなかったけれども、今は実現できるようになった、というのはどういうわけなんでしょう。例えば、ウェブをベースとしたソーシャル・ネットワーキング・サービスとかツイッターとか、ブログなどといった新しいコミュニケーション・ツール、それらが大きく影響していると思いますか。

Ub|XZ~i[トニー・シェイ:
勿論、それは大きな役割を果たしていると思います。そういったツールのおかげで情報伝播のスピードが飛躍的に増していますから、不満をもった社員や顧客が発する言葉が、瞬く間に、世界中の人に伝わってしまいます。けれども、例えば50年前を考えると、仮にひとりの人が不満を口に出したとしても、それが伝わるのは近所の人たちくらいのもので、その影響はたかが知れていたでしょう。でも、今は、良きにつけ悪しきにつけ、企業の行動が、ブログやツイッターなどを通じてものすごい速さ、そしてスケールで伝わってしまう時代になりました。

石塚:
なるほど。「社員や顧客のハピネス」と「利益」の両立が可能になったばかりではなく、企業が成功する上で、それが必要条件になったとも言えますね。(世の中が豊かになって、社員も顧客も、物やお金だけでは満足できない時代になった。むしろ、「人生の目的」とか、「どう生きたら、自分は幸せになれるのか」ということを追求する時代になったのだと思います。そればかりではなく、今日では、一人ひとりが「個」を表現したり、お互いにつながることが容易にできる「個」の時代になったから、社員や顧客のハピネスのサポートをして、それを表現してもらうことが、企業にとっての「力」につながるようになったのだと思います。)

では、それにも関連して、この本を「書こう」と思った動機について、ちょっと話してもらえますか。

ザッポスCEOトニー・シェイの著書delivering happiness(邦題:ザッポス伝説)

トニー・シェイ:
もともとは、「いつか一冊は本を書いてみたい」と単純に思っていて、自分の中の「やることリスト」の中の一項目をつぶすという、それだけの話だったんですが、そうこうしているうちに、ザッポスがやっている教育事業などの関連で、世の中のいろいろな会社からいろいろな質問を受けるようになりました。ザッポスのプレゼンテーションを聞いたり、あるいは、ザッポスについての記事を読んだりした人たちから、「自分たちの会社を変えたいんだけど、どうしたらいいか」、「顧客サービス、あるいは、企業文化にもっとフォーカスした会社にしたいんだけど、どうしたらいいか」という相談を受けるようになって、こういった悩みや質問に答えるために本を書こうと思うようになりました。だから、この本を通して、ザッポスや、ザッポスの社員や顧客だけではなくて、世の中の会社や、個人が「変わる」ための手伝いをすることができたら、というのが、僕の願いです。

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