すべてのビジネスはソーシャル・ビジネスである-「ザッポスの奇跡」で訴えたかったこと

(2010. 1. 27)

『ザッポスの奇跡』の読者の皆さん、いつも、ブログやツイッター、あるいはメールで感想を寄せて下さってありがとうございます。

今日は、私が、なぜ、『ザッポスの奇跡』を書きたいと思ったのか、今日の社会や市場の背景に照らして、ザッポスの事例の意義はどこにあるのか、といったことについて、改めて書いてみたいと思いました。

まず、私が、「ザッポス」というひとつの事例について徹底研究し、そこから得られた発見を世の中に伝えたいと思った理由は、ザッポスが、私が以前から提唱してきた顧客主導型ビジネス」の在り方を、セオリーではなく現実化している会社であったからです。

トニー・シェイ率いるザッポスは、今、世の中でどんな企業が必要とされているのか顧客の視点から見て、どんな売り手が望まれているのか、ということを明確に洞察し、それを自らのビジョンに重ねて、経営の在り方を再定義しました。企業文化を土台に、ビジネスとしての生産性を実現しつつ、社員がハッピーに働け、最終的には顧客、そして社会に価値を届けることのできる「仕組み」を創りあげたのです。

そこに、今日の市場の中で、ザッポスが稀有な存在として台頭してきた理由、言い換えれば、「ザッポスの奇跡」の謎が潜んでいると思います。

たいていの企業は、「ビジョン」どまりで終わってしまいます。しかし、ビジョンは、実現されなければ、ただの標語、理想論に過ぎず、絵に描いた餅でしかありません。ザッポス(トニー・シェイ)は、ビジョンを現実のものとするために、企業文化という土台が必要不可欠であることを認識し、企業文化を構築し、維持するための「仕組み」を創った、それが、コア・バリューと、それを基盤とする人事や教育など諸々の仕組みであり、人とテクノロジーのそれぞれ優れたところを組み合わせて最大活用するというスキームであり、ザッポスの特異性であるのです。

また、ザッポスのもうひとつの特徴であり、私がとりわけ共感を覚えたのは、「社会貢献」に対するザッポスの姿勢です。ザッポスは、「社会/市場で求められている企業」を現実化したばかりではなく、自らのノウハウを惜しみなく外部に伝授する「オープンソース」の思想や、常に向上し、それを社会に還元するという、循環性の仕組みを経営の中に取り入れました。社会に対して善い行いをすれば、それが価値となって自らに還元される、ということや、社会や顧客と共により善く、ハッピーになっていけるというのが、ザッポスという会社の信条であり、これは、私自身や、私の会社の理念と共鳴するものです。

「社会起業家」や、「ソーシャル・ビジネス」などという言葉が流行りのようになっていますが、私は、非営利、営利を問わず、すべての企業は社会に貢献するために存在するべき、と思っています。これからの世の中、それが当たり前になり、社会に対して価値を生み出さない企業は存在意義を失うと信じています。

Ub|XZ~i[コンサルティングというビジネスもその例外ではありません。私が経営する「ダイナ・サーチ」という会社は、日米間のビジネスの橋渡し役として、クロス・カルチャーから生まれる価値を最大化する、ということを基本理念にしています。『ザッポスの奇跡』の執筆のケースに置き換えて言えば、ザッポスというサブジェクト(研究課題)をコンサルタントのレンズを通して観察し、そこから浮かび上がった「仕組み」に照準を合わせて、それを読者の皆さんにわかりやすい形で体系づけ、明文化したことが、「価値の最大化」であり、「社会貢献」であると思っています。

これまで、ザッポスの表層については、アメリカのメディアでもしばしば取り上げられてきました。例えば、ザッポスのオフィスで行われる「パレード」の話、トレーニングを終えたばかりの新入社員にオファーされる「採用辞退ボーナス」の話、また、500人近い社員が活用するツイッターの話など、それらは奇抜であり、興味をそそる話ではありますが、ザッポスという会社の核心に迫るものではありません。私は、私自身が目指す社会貢献のビジョンや、コンサルタントとしての使命に基づき、ザッポスという会社の核心を見つめ、ザッポスという会社のどこが優れているのか、その謎解きをした上で、読者の皆さんが自分の仕事やキャリア・ライフに活かせるような形で提示したいと思いました。そこに、『ザッポスの奇跡』という本の存在意義があると考えたわけです。

ザッポスの奇跡 アマゾンが屈したザッポスの新流通戦略とは 石塚しのぶ

繰り返しになりますが、私自身も、コンサルタントとして、社会貢献の循環の仕組みを築いていきたいと思っています。『ザッポスの奇跡』の読者を通じて、今はまだごく小さな波紋ではありますが、「社員を、顧客を、社会を幸せにする会社づくり」を目指す人たちのコミュニティが形成されつつあるのを感じています。私のビジョンは、ザッポスも掲げている「透明性」や「オープンソース」の思想に則り、企業の仕組みの「オープンソース・デポジトリーを創ることです。『ザッポスの奇跡』を読み、私の考えに共感してくださる皆さんから、もう既に、「我々の会社ではこうやっています」などお便りが寄せられていますが、同じ志をもつ企業の皆さんが、これらの知恵を持ち寄り、共有し、お互いから学んで、より善い会社、ひいては社会を創造する企業経営のモデルを模索する場を創ることができれば、と願っています。
最後に、私は、世の中は感謝の連鎖である、と信じています。人に感謝されることをすれば、必ずそれは自分に返ってくるものだと思います。そして、新たに世の中や、自分を支えてくれる周囲の人に感謝の気持ちをもって、仕事であれ何であれ、価値を創造する活動を続けていくことができると信じています。

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