(04/30/2008)
日本が世界に誇る教育ビジネスとは?それは、「KUMON(公文)」です。北米に25万人の生徒数を誇り、
「教育系フランチャイズ」としては、まさしく「押しも押されもせぬ」王者の座に君臨しています。
「フランチャイズで食品といえばマクドナルド、教育といえばKUMON」
と言われるくらい、北米においてもそのブランドは浸透しているのです。
今日は、そのKUMON、「独り勝ち」の秘密に迫ってみました。
さて、早速本題に入りますが、
KUMONはなぜここまで強いのか、その答えは、ずばり、
「顧客を知り尽くした上での事業設計」
にあるように思います。
① ターゲット顧客の明確な定義
② 「顧客を知り尽くす」ことの徹底
③ 「顧客ニーズ」に基づいた事業設計
の3つのステップを抜け目無く遂行していることが、KUMONの強さの根源だと思うのです。
フランチャイズ・ビジネスで「顧客」といえば、二通りの顧客を指します。
ひとつは、サービスの利用を通してメリットを享受する「最終顧客」。
そしてもうひとつは、「フランチャイジー(加盟店)」です。
北米KUMONのターゲット顧客とは?
まず「最終顧客」から。本家である日本の公文は、「生涯教育」を謳い、子供から大人まで幅広い事業展開を行っているようですが、北米KUMONは対象を3歳から高校生までの子供に絞っています。そしてさらに、その年齢層の中でもある特定のグループに照準を合わせているのです。
その特定のグループとは、
「アジア系移民または移民の子供」です。
アジア系アメリカ人の人口規模は、今日1,200万人程度といわれています。北米KUMONは、アジア系移民の教育に対する高い関心と、「我が子に最高の教育と、将来に向けての最高のチャンスを与えたい」と願う切なる親心に訴えるビジネスなのです。
さらにKUMONのすごいところは、この「最終顧客ターゲット」をベースに、もうひとつの顧客である「フランチャイジー」のターゲットを定めたことです。
アジア系移民は、中国人ならチャイナ・タウン、インド人ならインド人街、というように、自分と同種の人々が集まる地域に居住する傾向にあります。また、スーパーや美容院など、贔屓にするビジネスも、自分と母国を同じくする人々が営んでいるお店を好んで利用することが多いといえます。これは、教育ビジネスも例外ではありません。アメリカの社会学者、ジョン・ナイスビットが提唱した「グローバル化が進めば進むほど、人間は部族(トライバル)化する」というコンセプトですね。
「顧客として、移民の子供をひきつけるためにはどうしたらいいか?」
これを出発点として、KUMONでは、「移民に焦点を定めて、フランチャイジーを開拓しよう!」という考えに至ったようです。
では、移民をフランチャイジーとしてリクルートするには、どうしたらいいか?
そう考えて、北米KUMONでは、手頃な初期投資と、「お金」より「資格」と「適性」を問う選抜システム、そして、手の行き届いたトレーニング・プログラムに基づく、フランチャイズの仕組みを打ちたてました。
例えば、手頃な初期投資。これがどのくらい手頃かというと、他の教育系フランチャイズ・ビジネスと比較してみるとわかりやすいと思います。
アメリカに、「シルバン・ラーニング・センター」というフランチャイズがあります。
KUMONと同じく、算数と読み書きを中心とした、チュータリング(個別指導)を提供しているフランチャイズですが、シルバンの場合、初期投資の推定額は18万ドルから30万ドルの間だといわれています。これがKUMONの場合、1万ドルから3万ドル。なんと10分の1の投資で起業できてしまうというのです。
昨今、どの業界でも、独立/個人経営のビジネスが大手に対抗し生き延びていくことは年々困難になってきています。そういった現状の中で、フランチャイズ・ビジネスという仕組みが、個人が独立、起業する上で勝算の高い方法としてますます注目を浴びてきています。その人気を受けてフランチャイズ・ビジネスの初期投資額も上昇傾向にあるようです。最近私もフランチャイズ関連の見本市に参加する機会がありましたが、初期投資額が20万ドルから50万ドルというのは当たり前になってきています。そこへきて、KUMONの1万ドルから3万ドルというのは、フランチャイズ・ビジネスを検討している人にとっては破格です。
また、KUMONでは、「資格」と「適性」に重きをおいた、厳格な選抜システムを設けて、やる気のある質の良いフランチャイジーの獲得に注力しています。さらに、営業開始前のトレーニング・プログラム、そして継続的なスキルアップのためのトレーニング・プログラムを設けて、フランチャイジーのサポートにも努めています。KUMONのフランチャイジー候補は、厳重な身元調査をクリアした後に面接試験、筆記試験を受け、イリノイ州にあるトレーニング・センターで7日間のトレーニング、実技試験をパスしなくてはなりません。「お金さえあれば誰でもなれる」というわけではないのです。もとより、KUMONのフランチャイジーになるためには、四年制大学の学士号をもっていることが条件になっていますが、KUMONのフランチャイジーの多くが、教員免許の保持者や、エンジニア(フランチャイジーの10%がエンジニア出身)であることも、この厳格な選抜システムに起因しているのかもしれません。
KUMONのメソッドは、「繰り返しによるスキルの向上」という考え方に基づいていますが、これが「discipline(しつけ)」を重んじるアジア系移民の価値観に訴えていることも、KUMONのこれまでの成功要因のひとつであるといえるでしょう。日本人である我々は、「学習ドリル」を見慣れて育っていますから、KUMONの教材を見てもあまり目新しい感じはしませんが、アメリカの一般の教育現場では、「繰り返すことによって覚える」というのはあまり見られないやり方です。アジア系移民である親たちは、アメリカの学校では得られないこういった学習法を、KUMONに求めているといえるでしょう。KUMONの生徒は、1週間に2度、KUMONの教室に行き、1回30分のドリル演習をします。また、毎日10分から30分ほど、自宅で自己学習することが奨励されているようです。
「単に学問を学ばせるだけでなく、辛抱強さや粘り強さなど、人格形成にも貢献する、それがKUMONの素晴らしさだ」
などという声も聞かれます。
アジア系移民の価値観や、「満たされないニーズ」に注目して成長してきたKUMONのビジネスですが、最近ではその教材がアメリカの公立校でも活用され始め、アメリカの主流社会への浸透の兆しも感じられます。平均的にみて、アジア系アメリカ人は教育水準の高さでも知られていますから、「お宅のお子さん、ずいぶん成績がいいけど、どうやって勉強しているの?」などとお母様同士の会話を通じてKUMONのブランド認知が広まっているとも想像できます。
Sushi(寿司)にしても、私がアメリカで社会人生活を始めた1970年代後半には、日本人やアジア系住民を主な対象としたごくニッチな食べ物でした。それが今日では、普通のスーパーでもSushiが買えるようになり、「Sushiを食べたことのない人」を見つける方が難しいくらいの時代になっています。KUMONも今後、Sushiと同様とまではいかないまでも、アメリカの一般社会の中に広く受け入れられていくのではないか、と私は推測するのです。北米におけるKUMONの市場潜在性は現在の10倍、生徒数も300万人程度まで拡張可能なのでは、とも言われています。北米市場への進出、というと、どうしても「アメリカ全般」を対象として考えがちですが、KUMONの事例は、「日本人」や「アジア系」といった限られた層に照準を合わせたビジネスでも充分事業として成立する可能性があり、そこを出発点として、もっと大きな市場へと拡張していくチャンスがあるのだ、ということを立証するものだと思います。
※この記事は、INSIGHT NOW! で掲載されています。(2008年5月1日)



